事務所ニュース [2020年7月号]

緊急事態宣言と休業補償

1 緊急事態宣言の発令

 新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」)がまん延する中、2020年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」)に基づく緊急事態宣言が発せられ、私たちは、歴史に残るような大きな社会変化を経験することになりました。

 緊急事態宣言のもとでは、外出自粛の要請や、事業者に対する休業の要請・指示などの措置がなされ、そうした措置に伴う補償の必要性が議論されるなど、法制度に関わる問題も色々と浮かび上がってきました。

 そこで、本稿では、緊急事態宣言の根拠法である特措法が制定された経緯についてご紹介した上で、この間、生じてきた様々な問題の中で、休業補償に関する問題を取り上げ、緊急事態宣言のもとで打ち出されてきた支援の制度についてお伝えしたいと思います。

2 特措法が制定された経緯

 特措法は、2009年に新型インフルエンザが世界的に大流行したことを受けて、2012年に制定されました。特措法の解説書によりますと、当時、日本でも2000万人が罹患したと推計され、入院患者数は約1.8万人にのぼり、一時的・地域的に医療資源や物資がひっ迫する状況も生じたことから、その教訓をふまえ、今後、病原性の高い新型インフルエンザ等の感染症がまん延する場合に備えて法制化がなされたとされています。

 なお、このたびの新型コロナが、特措法の適用対象の感染症に該当するかどうかについては議論がありましたが、新型コロナの感染が拡大する中で、新型コロナを特措法が定める感染症とみなす旨の法改正が行われ、特措法が適用されることになりました。

3 特措法は休業補償についてどう考えていたか

 特措法では、感染症がまん延した場合に備えて、臨時の医療施設を開設するために行政機関が強制的に土地を使用できるようにする規定を設けており、そのような場合は、土地の強制使用による損失を補償することが定められています。

 しかし、休業の要請・指示に関しては、補償の規定は設けられていません。

 特措法の解説書によれば、その理由としては、本来危険な事業は自粛されるべきものと考えられるということや、その措置の期間は緊急事態宣言のもとでの一時的なものであること、罰則によって強制的に中止させるものでないこと、国民の多くも外出を自粛し何らかの制約を受けること、などが挙げられています。

 ただ、そうした措置により、国民や事業者が生活や事業を立て直すために資金を必要とすることが想定されるため、特措法は、政府関係金融機関による融資に関する規定を置いており、必要に応じてそうした特別な融資等を活用いただくことを想定している、と説明されています。 

4 緊急事態宣言のもとで打ち出された対策

 しかし、実際に緊急事態宣言が発令されると、既存の特措法が想定していたような、特別な融資の活用ということだけで社会や経済を回していくことにはならず、全ての国民を対象とする特別定額給付金の給付や、そのほかにも、様々な対策が打ち出されることになりました。

 ここでは、その全てをご紹介することはできませんが、生活や事業を維持するために幅広く活用されうると思われる制度を中心にご紹介したいと思います。

⑴ 賃金の手当 = 雇用調整助成金、みなし失業手当

 賃金の手当に関しては、既存の制度で特例的に活用されてきているものとして、雇用保険法に基づく雇用調整助成金」の制度があります。

 ただ、この制度は、従業員に休業手当を支払った事業者が申請をして助成を受けるものであるため、事業者が休業手当の支払をしなければ、従業員は賃金の補償を受けることができません。

 そうした中、ある会社が、従業員が失業給付を直接に受けられるようにするために、後に再雇用するという前提で従業員を一斉解雇する措置がとったことが報道され、会社がとった措置の当否について意見が飛び交うようなこともありました。

 しかし、この雇用保険による失業給付に関しては、実は、東日本大震災が起きたときに、従業員が離職していなくても、失業したものとみなして失業手当を受けることができるようにするための特例措置(みなし失業手当)がとられていたのです。そのため、新型コロナの感染拡大についても、同じように特例措置がとられるべきであるということが言われるようになりました。

 その結果、このたび(2020年6月12日)、2020年度の第2次補正予算の成立とともに、新型コロナの影響に対応するための雇用保険法の臨時特例法が成立し、休業手当を受け取っていない従業員が、「みなし失業手当」を直接受け取ることができるようになりました。

 併せて、事業者が休業手当を払った場合の雇用調整助成金についても、上限額が大幅に引き上げられ、中小企業では、上限額の範囲で、休業手当の全額について助成がなされることになりました。

 ⑵ 持続化給付金、家賃支援給付金

 既に多くの事業者によって申請がなされているようですが、中小企業の事業継続を支えるための制度として、持続化給付金」の制度があります。2020年1月から12月までの間で、月間事業収入が前年同月比50%以下となる月があれば対象となります。

 また、第2次補正予算の成立により、事業者(大企業を除く)の地代・家賃(賃料)の負担軽減のための制度として、家賃支援給付金」の制度ができました。2020年5月から12月までの間で、①1か月の売上が前年同月比で50%以上減少したか、②連続する3か月の売上が前年同期比で30%以上減少したか、いずれかに該当すれば対象となります。

 ⑶ 住居確保給付金、緊急小口資金・総合支援資金

 個人の自宅住居の賃料支払を支援するための制度として、生活困窮者自立支援法(2015年4月より施行)に基づく「住居確保給付金」の制度があります。もともとは、離職・廃業から2年以内で求職活動をしている方が対象でしたが、新型コロナへの特例措置として、休業等により収入が減少し、住居を失うおそれがある方に対象が広げられており、市町村ごとに定められている上限額の範囲で原則3か月間、最大9か月間の家賃額の支給がなされます。

 また、新型コロナの影響で収入が減少した方への特例の貸付制度として、「緊急小口資金」(20万円以内)、「総合支援資金」(月20万円以内×原則3か月以内があります。市町村の社会福祉協議会などが窓口です。

 厚労省は、これらの制度を通じて、非正規労働者の方や個人事業主の方をはじめ、生活に困窮された方のセーフティーネットを強化するとしています。

5 教訓を踏まえて制度の改善整備を

 今回の経験を経て、特措法やそれに関連する諸制度には、休業補償に関することだけに限らず、備えとして不十分であった点や、見直しを図るべき点がたくさんあることが明らかになりました。

 特措法は、もともと、2009年に新型インフルエンザが流行したときの教訓から立法化がなされたものですが、このたび、実際に同法に基づき緊急事態宣言の発令がなされた中で得られた教訓を踏まえ、今後、同様の事態が生じたときの補償や支援の制度のあり方について議論し、制度の改善整備を図っておくことが必要であるように思われます。

(弁護士 高江俊名)


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