再婚禁止期間を定めた民法の規定が改正されました
1.最高裁による違憲判決
女性の再婚禁止期間を定めた民法733条1項の規定が違憲かどうかが争われた裁判で、最高裁大法廷は、平成27年12月16日、再婚禁止期間6か月のうち100日を超える部分を違憲とする判断を示しました。
2.100日超過部分が違憲と判断された理由
民法733条1項には、女性は離婚後6カ月を経過しなければ再婚できないと定められていました。
この規定は、もともとは、「父子関係の混乱防止」、つまり、再婚した女性から生まれた子の父親がいずれであるかについて混乱が生じるのを防ぐために設けられたとされています。
しかし、この規定が設けられた明治時代と違い、現在では、DNA鑑定等の科学技術によって父子関係を明らかにすることが容易になったこともあり、女性の再婚禁止規定ついては、女性に対する不当な差別ではないかとして、その存在意義が問われていました。
本件の裁判では、正にその点が問題になったわけですが、最高裁は、女性の再婚禁止規定は、父子関係についての推定の重複を回避するために現在でも意義があるとしたうえ、そのためには再婚禁止の期間は100日あればよく、100日を超えて再婚を禁止することは不合理であると判断しました。
すなわち、民法772条2項は、①離婚した日から300日以内に生まれた子は離婚した夫の子と推定する、②婚姻した日から200日を経過した後に生まれた子は、婚姻した夫の子と推定する、と「父性の推定」を定めています。この規定によれば、女性が離婚した日から100日以内に再婚した場合、①離婚後300日までの期間と②再婚してから200日経過後の期間に重なりが生じます。つまり、この間に生まれた子は離婚した夫の子とも再婚した夫の子とも推定され、父子関係が直ちに定まらないことになります。しかし、逆に、離婚した日から100日を経過して再婚すれば、①の期間と②の期間が重なることはありません。
そこで、最高裁は、その推定の重複を避けるためには、離婚後100日間の再婚禁止期間を定めれば十分であるとして、6か月のうちこれを超える部分は、男女の平等を定める憲法14条等に違反すると判断したのです。
3.民法改正
最高裁の違憲判決を受けて、平成28年6月1日、女性の再婚禁止期間を離婚後100日に短縮する旨の改正法が成立し、同月7日に公布・施行されました。
改正法では、再婚禁止期間が短縮されると同時に、離婚時に妊娠していなかった場合には、再婚禁止期間の規定は適用しないとする改正もなされました。この場合、再婚後に生まれた子は、前夫との婚姻中に妊娠したのでないことが明らかなためです。
4.今後の問題
今回の最高裁判決では、再婚禁止期間を定めること自体は違憲ではないと判断され、改正された民法の規定でも、原則として離婚後100日は再婚禁止とする規定は残りました。そのため、例えば離婚時に妊娠していた場合には、100日経つまでは再婚できず、しかも、100日経って再婚した後に生まれてきた子は、実際には再婚した夫との子であっても、前夫との間の子と推定されることになります。夫婦が離婚に至る場合は、離婚の前から夫婦関係が悪化して夫婦としての実態がなくなっているような場合も多く見られるところです。中には、暴力(ドメスティックバイオレンス)をふるう夫から逃れて何年間も夫に居場所を隠したまま生活することを強いられていたようなケースも少なくありません。しかし、そのように前夫との夫婦関係は離婚前から実態がなくなっていたとしても、離婚後300日以内に生まれた子は、前夫との子と推定されることになるのです。
そうだとすると、そもそも離婚後の100日間を再婚禁止とすることには、果たしてどこまで意味があるのか、という疑問もわいてくるところです。
本件の最高裁判決では、15人の裁判官のうち2人は、再婚禁止規定はその全部が憲法に違反しており、無効とすべきであるとの意見を述べています。多数意見も、100日間の再婚禁止規定や、その前提となっている「父性の推定」の規定は、憲法違反とまでは言えないと判断したにすぎず、それが最も合理的な制度だと判断したわけではありません。
この問題は、根本的には、法律上の父子関係の定め方に関わる問題であり、国会は、本件の最高裁判決を受けて、単に再婚禁止規定を一部改正するだけでなく、法律上の父子関係の定め方そのものについても審議を行う必要があるように思われます。