民法の契約ルールを見直すことに(債権法改正)
1 民法の改正法が成立
民法の契約や債権に関する部分の改正法が、5月に国会で可決され、成立しました。明治時代に民法ができて以来の抜本的な改正です。
主な改正点をご紹介します。なお、施行されるのは、成立から3年以内とされており、2019年から2020年ころになると思われます
2 改正の理由
(1) 民法の改正は、11年前に法務省が学者の提案を受けて検討に着手することを公表しましたが、その後、改正の必要は無いとか、アメリカ法の導入ではないかという反対の意見も出ていました。ただ、法定金利のように今の時代に合わない規定や、時効のように期間がバラバラでわかりにくい規定など、改正が望まれる点もありました。また、判例で解釈は固まっていますが法律に規定がない点も多数ありました。そこで、民法を分かりやすいものとすることと、社会・経済の変化への対応を図ることを目的にして検討が続けられ、改正案がまとまりました。
(2) 法務省は、改正案を提出する理由を次のように説明しています。「社会経済情勢の変化に鑑み、消滅時効の期間の統一化等の時効に関する規定の整備、法定利率を変動させる規定の新設、保証人の保護を図るための保証債務に関する規定の整備、定型約款に関する規定の新設等を行う必要がある。これが、この法律案を提出する理由である。」
改正点のほとんどは今の判例の考え方を基にしたものです。そこで、法律の改正により業務や取引には影響が出てきますが、ふだんの社会生活で大きな影響があるのは、上記理由に書かれている①消滅時効、②法定利率、③保証の三つであると言ってよいと思います。
3 主な改正点
(1)消滅時効は原則5年に統一
消滅時効は、一律に、「権利を行使することができることを知ったときから5年間」又は「権利を行使することができるときから10年間」と改められます。権利者は通常は弁済期を知っていますので、今後は、「知った時から5年」 のルールによって処理されることになると考えられます。現在の民法では期間は10年でしたので、半減します。
また、これまでは職業別の短期時効の定めがあり、旅館や飲食店の代金は1年、商店の売掛金は2年、工事代金は3年というような時効がありましたが、合理的な理由があったとはいえず、廃止されます。商行為による債権の5年の時効も廃止されます。
(2)法定利率は年5%から年3%に引き下げ
当事者が利息について取り決めをしていないときに使われる「法定利率」は、現行の年5%から年3%に引き下げられます。そして、3年ごとに市場の金利に合わせて見直しがされます。
今までの年5%は実際の市場の金利に比べて高すぎるとの批判がありました。また、実際は5%の年利で運用できないのに、交通事故などで亡くなった人が将来得たとして認められる逸失利益が年5%の法定利率で利息分を算定して差し引かれるのは酷であるとの指摘がありました。
(3)保証人の保護
保証人を保護する規定が二つ新設されました。
一つは、公正証書の作成義務の新設です。現行法でも、保証契約は書面で作成しなければ効力を生じないとされていますが、これからは、中小企業が融資を受ける際に、経営と関係がない第三者の個人を保証人とする場合は公証人による意思確認を必要とすることになります。これは、親族や友人などが義理で頼まれることが多い個人保証については、保証人となろうとする者に特に慎重な判断をさせるべきであると弁護士会が提案して設けられたものです。
二つは、これまでから、主たる債務に融資による債務が含まれている根保証において個人が保証人となる場合は、極度額(上限額)を定めなければ保証契約の効力は生じないとされていますが、これからは、個人が継続的に生じる不特定の債務を保証する場合には、必ず極度額の定めがなければならないことになります。そこで、家主が建物を賃貸する際に個人の保証人を求めるようなときも極度額の定めが必要となります。極度額が決まっていないと保証契約自体が無効になりますので、注意が必要です。
(4)その他
報道では、上記の3つのほかに、「賃貸借」と「約款」についての改正もよく紹介されています。ただ、賃貸借の規定は判例を基にしたものがほとんどです。また、運送や保険などの約款について、これまで民法には規定がなかったのですが、内容を開示する義務などの条件を付けて、約款に一定の法的効力を認める規定ができました。
4 民法の規定の全面的な見直し
民法の重要な規定が全面的に見直されましたので、契約や裁判などの法律実務では影響が出てきます。たとえば、債務不履行責任、契約解除、瑕疵担保責任、危険負担、債権譲渡、相殺、錯誤、詐害行為取消権なども、それぞれ要件と効果が変わってきます。
瑕疵担保責任が廃止になり、契約不適合による債務不履行に一本化されたのは大きな改正点です。瑕疵(かし)(キズ、欠陥の意味)という難しい言葉が民法から消え、代わって、契約不適合責任という言葉になります。そこで今後は契約書には「瑕疵があったときは」と書くのではなく、「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物であったとき」という書き方になると考えられます。