職場におけるセクハラ問題について
1 セクハラとは
1989年、日本で初めて、「セクシャル・ハラスメント」という言葉を使った裁判が提起されました。「結婚もせず男遊びか」「夜遊びがお盛んだな」などの嫌がらせの言葉を上司からかけられ続けて会社を退職した女性従業員が、元上司と会社を相手取って損害賠償請求訴訟を提起しました。裁判所は、女性従業員の請求を全面的に認める判決を言い渡しました。
これ以降、日本でもセクハラを理由とする裁判が提起されるようになり、これまで特に問題とされずに職場等で行なわれてきた言動を違法行為にあたるとする司法判断が示されるようになりました。「セクハラ」はテレビや雑誌で頻繁に取り上げられるようになり、「セクシャルハラスメント」が1989年の新語・流行語大賞の新語部門・金賞を受賞しました。
その後、1997年に「男女雇用機会均等法」が改正されてセクハラ防止のための規定が創設されるなど、セクハラ防止に向けた法整備が進められました。
現在、職場におけるセクハラについては、厚生労働省が示した指針において、①職場において行なわれる性的な言動に対する労働者の対応により、その労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けるもの、②職場において行われる性的な言動により、労働者が苦痛を感じて業務に専念できないなど、労働者の就業環境が害されるものと定義されています。
2 具体例
裁判所が違法と判断したセクハラ事例には、身体接触を伴うセクハラの事案だけではなく、言葉によるセクハラの事案も多数見受けられます。
上司が、女性従業員に「昨夜遊びすぎたんじゃないの」などと性的な事柄についての発言を繰り返した事案で、裁判所は50万円の慰謝料を認めました。
また、上司が部下に自身の性生活の話や女性客を性の対象と見るような発言を繰り返したので、会社は上司に対して30日間の出勤停止の懲戒処分とそれに伴う降格処分をしました。上司は処分は無効だとして訴えましたが、裁判所は、いずれの処分も有効であると判断しました。
日本では、比較的小さな出来事も違法なセクハラと認められる傾向にある一方、賠償額がそれほど大きくないことが指摘されています。
3 会社の責任
「男女雇用機会均等法」や厚生労働省の指針には、会社はセクハラを防止するための措置を講じなければならないことが定められています。
具体的には、社内報やパンフレット等を配布してセクハラに対する労働者の意識を向上させたり、相談窓口を設け、労働者からの相談に適切に対応すること等が会社に求められます。
会社がこのような措置を講じなかったために、セクハラが発生し、また被害が拡大したと認められるような場合には、会社は損害賠償責任を負う可能性があります。