西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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民法が新しくなります ・・・ 改正民法の紹介①  ~ 法定利率と中間利息の控除 ~

2017年5月26日、民法の改正法が成立し、同年6月2日に公布されました。施行には、十分な周知のため、成立から約3年の周知期間を設けられており、改正民法は2020年4月1日から施行される予定です。

1 121年ぶりの改正

   民法は、民事の基本法であるため、全ての人に関わりがあると言ってよい法律ですが、明治29年(1896年)に制定されて以来、制定当時の内容がほとんどそのまま現在まで引き継がれてきていました。
   しかし、1世紀以上の間に、私たちの国の社会・経済情勢は、様々な面で大きく変化しています。取引量は劇的に増大し、取引内容も複雑高度化しています。情報伝達の手段も飛躍的に発展しています。
   そのような変化に法律を対応させていくため、民法の中の契約や債権に関する規定を全般的に見直し、改正することになりました。明治時代に制定されて以来、121年ぶりの法改正です。
   民法は、私たちの生活に非常に関わりの深い身近な法律ですので、今回の改正を機に、今後、主な規定についてシリーズでご案内していきたいと思います。
   第1回では、「法定利率」と「中間利息の控除」の規定を取り上げます。

2 法定利率

(1)法定利率とは
 

    現行の民法は、「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。」と定めています(民法404条)。これが「法定利率」とされているもので、その利率は年5分(5%)とされてきました。
     また、民法は、債務者が期限までに支払をしない場合の遅延損害金についても、特に取り決めをしていない場合は、法定利率によるものと定めています(民法419条)。

(2)改正の背景 ~金利情勢の変化~ 

     昨今、市場金利が低下し、「超低金利」、「ゼロ金利」と呼ばれるような金利情勢が長期化する中で、年5%という法定利率が市場金利と比べて高すぎると指摘されてきました。
     そのため、法定利率を見直すことになりましたが、市場金利は変動していくものであるため、どのように見直すかが問題となりました。

(3)どのように変わるか

     今回の改正では、まず、年5%という利率を年3%に引き下げることにした上、今後は、3年ごとに法定利率の見直しを行う変動制を採用することにしました。
     具体的には、3年を1期として、過去5年間の貸出約定平均金利の平均値(基準割合)が1%以上変動した場合に限り、1%単位で法定利率を変動させることにしました。

3 中間利息の控除

(1)中間利息の控除とは

     中間利息の控除というのは、損害賠償の算定の場面などで用いられる考え方です。例えば、ある人が交通事故で亡くなり、遺族が加害者に損害賠償請求をするという場合、被害者が生きていたなら得られたはずの収入について賠償を求めることになりますが、仮にその損害が1年あたり300万円として、事故がなければ20年間はそのまま働くことができたとすると、単純に考えれば、300万円×20年として6000万円の賠償を受けるべきことになりそうです。
     しかし、もし遺族がその6000万円を銀行に預けておいて年5%の利息を得られるとすればどうでしょうか? 遺族にとっては、本来なら何年後かにしか得られなかった金銭が元本となって、かなりの利息収入が得られることになります。
     そこで、その利息の分を差し引いて賠償額を算定し、調整するというのが「中間利息の控除」の考え方です。
     「中間利息の控除」は、現行の民法に規定されているものではありませんが、損害賠償の裁判実務の中でルール化され、裁判所は、その際の利率として、民法が定める年5%の法定利率を前提に「中間利息の控除」をしてきました。
     しかし、この間の低金利情勢を受けて、年5%で中間利息の控除を行うことの不合理が指摘されるようになりました。

(2)法定利率の改正との連動

     今回の民法改正で、法定利率の改正と合わせて、損害賠償額の算定において中間利息を控除する場合は法定利率によって算定を行うことが、民法の法文の中に明確に規定されました。
     また、前述のように、法定利率について変動制が導入されることになったため、中間利息控除の際の利率は、損害賠償請求権が発生した時点の利率を適用することが規定されました。交通事故であれば、事故発生時の法定利率が適用されることになります。
     この改正により、2020年4月の施行から少なくとも向こう3年間に発生した事故の損害賠償では、年3%で中間利息の控除が行われることになります。

(3)損害賠償実務への影響 ~自動車保険料の値上げも?~

     この中間利息控除における利率の変更は、交通事故などでの損害賠償の実務に非常に大きな影響を与えることが想定されています。日本損害保険協会の試算によれば、例として、一家の支柱である27才男性が死亡した場合の収入喪失による損害は、法定利率が5%の場合は5560万円程度であるのに対して、3%の場合は7490万円となり、2000万円近くも跳ね上がることになります。この差額をそのまま認めるのかどうかは今後の賠償実務における検討課題となりますが、賠償額が大きく増えるとすると、自動車賠償保険の保険料の値上げにつながっていくことも想定されます。
     このように、今回の民法改正は、多くの国民にとって、その経済生活に直接影響しうる内容を含んでいるのです。