西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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10年を迎えた裁判員制度

 

1 2019年5月21日で裁判員制度は10年になりました

刑事裁判に国民が参加する制度は、ほとんどの先進国にあります。アメリカやイギリスの陪審が有名ですが、ヨーロッパでは参審制という制度があります。日本でも戦争前は陪審制があり、15年間に484件の陪審裁判が行われました。大手商社の就業規則に、陪審員になるときは休暇が取れると書いてあるのを見たことがありますが、それは制度の名残です。

戦前の陪審裁判は無罪率が16.7%でした。今の無罪率は1%以下ですから、当時の無罪率が高いことに驚きます。日本の陪審裁判は戦争の激化で停止され、戦後は長い間、復活されませんでした。

司法改革の議論の際も、最高裁は、裁判官としての自負からだと思いますが、国民が参加することに消極でした。裁判員の数を何人にするかも最後までせめぎ合いがありました。人数が少ないと国民の多様な経験や意見が反映できず、単なるお飾りになるおそれがありました。

弁護士会は視察や研究を重ね、私もアメリカの実情視察や大阪選出の国会議員への説明等に参加しました。結局、裁判官3人と国民6人が審理する「裁判員制度」という形で実現しました。

 

2 9万人が裁判員を経験しました

裁判員裁判の対象になる事件は、殺人や強盗致傷、放火、傷害致死などの重大な犯罪です。大阪地裁では、2017年は本庁で85人、堺支部で18人の被告人について裁判員裁判が行われました。

10年間(2019年2月末まで)に、全国で1万3861人の被告人が裁判員裁判を受け、9万0339人の国民が裁判員の経験をしました。裁判員を引き受けるのは法的義務ですが、70歳以上の人、病気の人、介護や育児の必要がある人などは辞退ができます。

 

3 平均の期日は5回程度

裁判員制度の導入は刑事裁判のやり方を変えました。国民が長い期間、裁判に参加するのは無理ですので、まず、争点や証拠を整理する公判前整理の手続を平均7か月間ほど行います。準備のために、検察官は手持ちの証拠を事前に弁護人に開示する手続もできました。

公判期日の回数は、平均5回です。平均3人の証人調べをして、約10日間(土日も含む)で終わります。この間の評議の時間は平均約12時間です。私は、かなり時間をかけて議論をしているなと思います。そのこともあるのか、裁判員経験者の74%の人が「十分に議論ができた」と回答しています。

 

4 刑事裁判が徐々に変わってきました

裁判員制度が導入される前は、捜査機関が作った調書を裁判官が読むだけで、裁判が形骸化していると言われていました。裁判員制度で国民が入ることにより、見て聞いて分かる裁判をする必要が生じました。事務所の高江弁護士は、2件の裁判員裁判の弁護人をしましたが、裁判官と裁判員の熱心な姿勢を感じたと言います。

また、刑罰(量刑)に幅が出てきたと言われています。たとえば、介護で経済的、精神的に行き詰まった状況での殺人事件では、職業裁判官の時代に比べて刑が軽くなりました。他方、残酷な事件や性犯罪では厳罰化しているようです。また、判決後の更正を重視して、執行猶予判決に保護観察を付ける率が36%から56%に増えました。

日産自動車のゴーン氏の事件で、長期間身柄を拘束する日本の捜査の仕方が問題になっていますが、裁判員制度ができたあと、保釈が認められる率は増えています。

 

5 「経験してよかった」との感想が9割

裁判員経験者に対する調査では、参加する前に「やってみたい」と思っていた人は34%でしたが、参加後は、96%の人が「よい経験をした」と答えておられます。

検察審査会は、起訴しなくてよいかを国民が審査する制度ですが、審査員に対する調査で、経験してよかったという感想が多かったので、弁護士会では、裁判員制度もきっとうまく行くと思っていました。裁判所は、裁判員制度で候補者の選任などの事務が増えましたが、裁判員経験者のこの感想で安堵されていると思います。

 

6 選任される率

課題はありますが、裁判員制度は評価する声が多いようです。ただ、当初に比べて、辞退する人が増えています。裁判員制度は、司法も国民が参加して維持していこうという制度ですので、国民の参加が不可欠です。大阪は人口の割に事件が多いのですが、それでも、毎年の裁判員選任に入る率は約5000人に1人です。一生のうちに経験する人は100人に1人位でしょうか。選ばれたときは、貴重な機会だと思って参加していただきたいと思います。