これからの売買契約書と賃貸借契約書(民法改正で変わる点)
1 民法の債権法の部分が改正されました
民法の債権法の部分が改正され、原則として今年(2020年)4月1日から施行されています。主な改正点は、「消滅時効期間の統一(5年と10年の2種類)」、「法定利率の引き下げ(一律年3%)」、「上限額の定めのない個人の根保証は無効(後述)」「瑕疵担保責任から契約不適合責任への変更(後述)」などです。
2 これから売買や賃貸借の契約をするとき
会社や個人で売買や賃貸借の契約をされるときに、以前の契約書を見本にして契約書をお作りになることもあると思いますが、民法改正により、以前の契約書のままでは適切でない点があります。
以下では、主な点をご説明します。なお、今年(2020年)4月1日より前に締結された契約については、引き続き改正前の民法が適用されますので、契約書を作りかえる必要はありません(一般に「法律は遡及しない」というのが法律の大原則でして、ここにも当てはまります。)
3 売買契約書を作るときの注意点
売買契約書の作成で特に注意していただきたい点は、これまで瑕疵担保責任といわれていた条項と、危険負担に関する条項の2点です。
(1) 「瑕疵」から「契約不適合」に(瑕疵担保責任の廃止)
- これまでの売買契約書では、売主が売買物件に責任を持つときは、「隠れた瑕疵(かし)」(一見しただけでは分かりにくい欠陥の意味です)があるときは、買主は契約を解除したり、損害賠償を請求したりできると書いていました。
- 改正された民法は、わかりやすさを重視して、瑕疵という難しい言葉を使うことを止めました。その代わりに、「契約の内容に適合しないものであるとき」(短くいうときは「契約不適合」と言います)(法562条①)という基準を導入しました。そこで、これからの売買契約書には、「目的物の種類、品質が契約の内容に適合しないときは」などと書くことになります。
- そして、目的物に契約不適合があるときは、買主は、解除、損害賠償だけでなく、目的物の修補、代替物の引渡し、不足分の引渡し、代金の減額を請求できることも定められました。
- 逆に、中古の建物を売却するような場合は、欠陥の有無について保障することなく、現状のまま売却するという取り決めにすることが多いと思います。その場合、これまでは、「現状有姿のまま引き渡すものとし、隠れたる瑕疵の対象としない。」などと書いていました。これからは、「現状有姿のまま引き渡すものとし、民法第562条第1項本文及び同法第565条並びに商法第526条の定めにかかわらず、本物件の種類又は品質に関して一切の担保責任を負わない。」と書くのがよいと思います。
(2) 引渡時までに商品が滅失・毀損したとき(危険負担は買主負担から売主負担に)
契約を締結したあと目的物の引渡しまでに、双方の責任でない理由で目的物が滅失、損傷したとき、どちらかがその危険を負担するかについて、改正前の民法は、買主は代金の支払義務を免れないとしていました。買主は目的物の引渡しを受けていないのに代金だけは払えという原則でしたので、従来から批判が多く、改正民法は、買主は代金の支払いを拒めることを原則にしました。
そこで、引渡しまでに目的物が滅失、毀損してしまったとき、買主は代金を支払わなくてもよいとする契約にするときは、以前は、改正前民法の原則を排除するために、「危険負担は、契約締結のときではなく、目的物が引渡されたときに移転する」と書いていました。今後も、同じ取り決めをするときは、以前と同じ文章を書くことになりますが、その意味は、法律の原則を変えるというものではなく、単に当事者間で確認をしておく意味になります。
逆に、当事者間で、契約後、引渡しまでの間に双方の責任でない理由で目的物が滅失、毀損したときでも、代金の支払いを求めたいとき、あるいはその間に修理の必要が生じたときに修理費の負担を買主に求めるときは、これからは、しっかり、そのことを契約書に明記しておく必要があります。
4 賃貸借契約書を作るときの注意点
(1)賃貸借契約の期間
従前、賃貸借の期間は20年が上限でしたが、50年が上限になりました。これはゴルフ場の敷地や太陽光発電のパネルの設置などで、20年を超える土地賃貸借のニーズがあるためです。なお、借地借家法が適用される不動産賃貸借契約は、今後も借地借家法が適用されますので、この規定が使われる場面は多くないと思います。
(2)個人の保証人
今年(2020年)4月1日以降は、賃貸借契約で個人の保証人を求めるときは、極度額(限度額)を決めておかないと無効になります。すなわち、賃貸借契約書に、「連帯保証人が貸主に対して負担する債務は金○○円を限度とする。」というような規定を入れておくことになります。極度額をいくらにするかについて明確な規定や基準はありません。なお、保証会社が利用される場合がありますが、会社が保証人になる場合には適用はありません。