パワハラ防止措置が事業主の義務になります
1.「パワハラ防止法」の成立
厚生労働省によると、都道府県労働局等に寄せられる「職場でのいじめ・嫌がらせに関する相談」は年々増加しており、2008年度に約3万2000件だった相談件数は、2018年度には約8万2000件にまで増加しています。また、2016年の厚生労働省の調査では、過去3年間にパワハラを受けたことがあると回答した人は、回答者全体の30%を超えていました。
このような背景から、2019年5月29日、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」(略称「労働施策総合推進法」)を改正する法律(以下「改正法」)が成立し、パワーハラスメント(パワハラ)防止のため、事業主の義務等が新たに定められました。そこで、この改正法は、パワハラ防止法とも言われます。日本の法律で、はじめてパワハラについて定められたものです。
2.改正法における事業主の義務等
⑴ パワハラの定義の明文化
改正法では、パワハラは、「①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③その雇用する労働者の就業環境が害されるもの」と定義されています。
改正法に関する厚労省の指針には、パワハラに該当すると考えられる例と該当しないと考えられる例が具体的に示されています。
例えば、遅刻など社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して一定程度強く注意をすることはパワハラに該当しないけれど、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うことはパワハラに該当すると考えられるとされています。
⑵ パワハラ防止のために事業主が講ずべき措置義務
改正法及び指針では、事業主に対し、①パワハラ防止の方針等の明確化及び労働者に対する周知・啓発、②相談窓口等の体制の整備、③パワハラ発生後、迅速かつ適切に事実確認や再発防止等の措置をとること等が義務付けられています。
また、パワハラに関して相談を行ったことや事実調査に協力した労働者に対して、解雇等の不利益を行うことも禁止されています。
これらに違反し、勧告に従わない場合には、その旨を公表できることや、事業主の措置義務に関して虚偽の報告をした場合の罰則(20万円以下の過料)も定められました。
⑶ 施行日
改正法は、大企業については今年(2020年)6月1日から施行されています。中小企業については2022年4月1日から施行されます(それまでも努力義務としての効力があります)。
3.セクハラ等についても防止対策が強化されます
職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)やマタニティハラスメント(マタハラ)については、既に、男女雇用機会均等法や育児・介護休業法により、雇用管理上の措置を講じることが既に義務付けられています。
この度のパワハラに関する法改正と同時に、セクハラ等について定めた男女雇用機会均等法等についても改正が行われ、防止対策が強化されました。これにより、自社の労働者が他社の労働者にセクハラを行った場合に、他社が実施する事実確認等への協力に応じるよう努めなければならないことなどが定められました。セクハラ等に関する改正法は、事業所の規模を問わず、今年(2020年)6月1日から施行されています。