西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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損害賠償金の支払方法に関する新しい最高裁判例が出ました

 

 1 「逸失利益」について定期払いで賠償を受けることはできるか? 

 交通事故などによって被害者が怪我をして後遺障害が残った場合、被害者は、後遺障害のために稼働能力が低下したものとして、「逸失利益」の賠償を求めることができます。

 逸失利益の賠償は、稼働能力の低下により、本来なら将来得られるはずだった収入を失うことの損害を賠償してもらうものですが、損害賠償の実務では、事故後の示談交渉や訴訟の時点で一括して支払を受けるのが一般的です。

 では、この逸失利益について、将来にわたって定期的に年金のような形で賠償を受けることは可能でしょうか?

 

2 定期金での賠償を認める最高裁判例 

 将来の逸失利益について、現時点で一括で賠償を受ける場合、その算定において、「中間利息の控除」がなされます。これは、例えば、10年後の逸失利益を100万円とした場合、現時点で被害者が100万円を受け取ると、その100万円を10年間預金にしていれば、それに利息が付いて、被害者はその利息分、逆に得をしてしまうことになります。

 そこで、その間得られることになる利息分を差し引いて賠償額を算定する、ということなのですが、これまで、その「中間利息の控除」は、利息の利率を5%として算定されてきました。その結果、低金利あるいはゼロ金利の状態が続く中で、被害者が得る逸失利益がその分目減りすることが問題になり、被害者によっては、それなら一括ではなく、定期金として賠償を求める、ということが行われるようになったのです。当事務所でも、依頼者の方の意向で、後遺障害の逸失利益について定期金の形で請求し、認められたことがあります。

 他方、加害者や保険会社の側にとっては、逆に、支払総額が増えることになりえますし、将来にわたって長期的に支払を管理する負担も生じます。

 そのため、逸失利益について定期金での賠償請求が認められるかどうかがこれまで裁判で争いになってきたのですが、このたび、最高裁の判例で、被害者が定期金での支払を求めている場合は、後遺障害の逸失利益について定期金での賠償を命じることができるとの判断が示されました(最高裁令和2年7月9日判決)。

 

3 被害者が別の原因で早く亡くなった場合はどうなるか?

 定期金での賠償に関しては、理論的な問題として、被害者が事故後にその事故とは別の原因で早くに亡くなった場合、賠償は打ち切りになるか?という問題があり、これまで議論になってきました。

 この点については、一括で賠償を求める場合であっても、被害者が事故後、損害賠償の裁判をしている間に別の原因で亡くなったような場合には同じことが問題になりますが、最高裁は、実際にそのことが問題になった裁判で、被害者が別の原因で亡くなったことは考慮せず、平均的な稼働年齢まで生きている前提で逸失利益を算定するとの判断を示しています(最高裁平成8年4月25日判決)。

 ただ、他方で、最高裁は、被害者の損害のうち将来の介護費用については、事故後に被害者が死亡した場合は、死亡後の期間にかかる介護費用を損害として認めることはできないとの判断を示しています(最高裁平成11年12月20日)。

 そのため、今回の新しい最高裁判例の裁判では、逸失利益について定期金での賠償請求が認められるとした場合、その終期はどうなるのか(被害者の死亡時が終期となるのか)ということも問題になったのですが、最高裁は、後遺障害による逸失利益について定期金で賠償を命ずる場合は、その終期は、被害者の死亡時ではなく、平均的な就労可能期間の終期(通常67才までとされています。)とする判断を示しました。

 

4 今後の実務への影響

 民事訴訟法117条は、判決で定期金での賠償が命じられている場合、裁判の終了後に、賠償額算定の基礎とされた事情に著しい変更が生じたときは、当事者は、判決の変更を求めることができると定めています。

 そのため、被害者の後遺障害が、裁判後に想定外に回復したような場合は、被害者は、相手方から、定期金の賠償額の減額を求めて裁判をされる可能性がありえます。

 また、逸失利益を算定する際の中間利息の控除については、令和2年4月からの民法改正で、利率をそれまでの5%から3%に引き下げる改正がなされています。

 とはいえ、現在の金利状況からすると、特に逸失利益の額が大きい場合は、被害者にとっては、中間利息の控除で金額が目減りすることに納得がいかないと感じられることもあるかと思います。

 そのようなことからすると、後遺障害の逸失利益について、定期金での賠償請求を認めた今回の最高裁判例が今後の損害賠償実務に与える影響は、小さくないものと思われます。

 なお、今回の最高裁判例は、後遺障害による逸失利益についての判断であり、被害者が事故で死亡した場合の逸失利益については、別問題であるとされています。