「経営者保証に関するガイドライン」について ―保証人になっておられる皆様へ―
1.「経営者保証に関するガイドライン」の策定
⑴ 中小企業が金融機関から融資を受けようとすると、ほとんどの場合、経営者の個人保証(以下、「経営者保証」)を求められます。中小企業庁からは、8割強の中小企業が経営者保証をつけているとの調査結果が公表されています。
経営者保証には、企業の信用を補完して資金調達を容易にするという面がある一方で、保証後は、経営者による思い切った事業展開や、経営が窮境に陥った場合における早期の事業再生等の着手を阻害する要因ともなってきました。
このような状況に鑑み、中小企業における経営者保証に関して、2013年8月に「経営者保証に関するガイドライン研究会」が組織され(日本商工会議所と全国銀行協会が事務局)、金融・商工団体の関係者、弁護士、公認会計士や、中小企業庁や金融庁等の関係省庁等も参画し、同年12月に「経営者保証に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」)及びQ&Aが策定されました。ガイドラインは、2014年2月から運用されています。ガイドライン及びQ&Aの内容は、中小企業庁のHPで見ることができます。
⑵ ガイドラインに法的拘束力はありませんが、主たる債務者(中小企業)、保証人及び債権者は、自主的自律的なルールとしてガイドラインを遵守し、ガイドラインに基づく保証契約の締結、保証債務の整理等における対応について、誠実に協力することとされています。
2.ガイドラインの2つの柱
⑴ 保証契約の締結時・解除時の対応
ガイドラインの1つ目の柱は、経営者保証に依存しない融資の促進を中小企業や債権者に求めたことです。
例えば、債権者は、条件付きの保証契約(債務者が財務状況等に関する報告義務に違反しなければ保証の効力が発生しないといった保証契約)や金利の上乗せ等、経営者保証の機能を代替する融資手法の充実を図ることとされています。
また、既に経営者保証がされているケースにおいて、主たる債務者や保証人から保証契約の解除等の申入れがあった場合、債権者には、経営者保証の必要性や適切な保証金額等について改めて検討すること、事業承継が生じた場合、前経営者が負担する保証債務について後継者に当然に引き継がせるのではなく、保証契約の必要性について改めて検討すること、前経営者から保証契約の解除を求められた場合には、前経営者が引き続き実質的な経営権を有しているか等の事情を勘案して、保証契約の解除について適切に判断すること等といった対応が求められています。
⑵ 保証債務整理時の対応
ガイドラインのもう一つの柱は、保証債務整理時の対応です。
主たる債務者(中小企業)が破産手続や民事再生手続等の債務整理手続の申立てを行った場合において、保証人が主たる債務者の経営者である等の要件を満たす場合、保証人は、ガイドラインに基づく保証債務の整理を債権者に申し出ることができます。
ガイドラインに基づく整理のメリットは、破産手続で保証債務を整理する場合に比べて、多くの財産を残せる点にあります。
破産手続によった場合、破産者が手元に残せる財産は合計99万円以下に限られます。また、所有する不動産は売却して債権者への弁済に充てなければなりません。
他方、ガイドラインによった場合、99万円を超える現金や生命保険等の解約返戻金についても手元に残すことができます(残せる額の上限はあります。)。また、保証人の自宅についても手元に残せる可能性があります。
保証人は、手元に残せる範囲を超える財産を債権者への弁済に充てます。
3.ガイドラインに基づく整理手段について
ガイドラインに基づく保証債務整理の手段としては、再生支援協議会の支援を得て整理する方法や簡易裁判所の特定調停を利用する方法等、いくつかの手段があります。
当事務所が担当した事案では、再生支援協議会の支援のもと、ガイドラインに基づく保証債務の整理を行い、99万円を超える現金等や自宅を保証人の手元に残すことができました。
以上