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トラック運送業における働き方改革(時間外労働の上限規制の適用、貨物自動車運送事業法の改正)

弁護士 柳本千恵

1.運送業界の労働実態

厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査」によると、大型トラック運転者の年間労働時間は2532時間、中小型トラック運転者の年間労働時間は2484時間と、全産業平均2100時間に比較して2割ほど長くなっています。また、1日あたりの残業時間は、トラック事業者の14%で4時間~7時間、7時間を超えているトラック事業者も4.3%との調査結果が出ています。

にもかかわらず、トラック運転者の年間所得額は全産業平均より約1割~2割低く、このような厳しい労働環境がトラック運転者の人手不足の要因になっています。高齢層の割合も高く、このままいけば、ドライバー不足は更に深刻化することが予想されます。

そこで、重要な社会インフラである物流が滞ることのないよう、ドライバーの労働環境の改善に向けた法改正が行われました。改正の概要をご紹介します。

 

2.時間外労働の上限規制

平成30年に成立した「働き方改革関連法」によって労働基準法が改正され、長時間労働の抑制のため、時間外労働の上限規定(原則として月45時間かつ年360時間)及びこれに違反した場合の罰則規定(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が設けられました。

この時間外労働の上限規制は、大企業については平成31年4月1日から、中小企業については令和2年4月1日から適用されています。トラック運送業等の自動車の運転業務については、先にご説明しましたように、他の事業に比べて労働時間が長い実態があり、その背景には取引慣行の問題など個々の運送事業者の努力だけでは解決できない課題があるとして、上限規制の適用の猶予措置(5年間の猶予)が設けられました。

その結果、トラック運送業については、令和6年4月1日から、時間外労働の上限規制が適用されます。

なお、年間時間外労働時間の上限については、他業種は720時間であるのに対し、トラック運送業等の自動車の運転業務については960時間と、運送業界の実情に照らして緩く設定されています。

 

3.貨物自動車運送事業法の改正

このように、トラック運送業にも時間外労働の上限規制が適用されると、一人あたりの労働時間が減り、更なるドライバー不足が懸念されます。

そこで、トラック運送業への規制の適正化を図り、運転者の労働条件を改善してドライバーを確保するため、貨物自動車運送事業法が改正されました(いわゆる「トラック働き方改革法」)。

改正のポイントは4つです。

⑴ 規制の適正化

法令に違反した者等の参入の厳格化を図るため、1年以上の懲役または禁錮の刑に処せられた者等が運送事業の許可を受けることができない欠格期間が、現行の2年から5年に延長されました。

また、荷物の積込みや荷下ろし、荷待ち等の役務に対しても対価が支払われるよう、運送の役務の対価としての「運賃」と運送の役務以外の役務又は特別に生ずる費用に係る「料金」とを区別して収受する旨を運送約款に明確に定めることが、運送約款の認可基準に追加されました。

⑵ 事業者が遵守すべき事項の明確化

運送事業者は、運送事業の許可を受けた後も、過労運転を防止するために必要な事項(適切な乗務時間等の設定、運転者が休憩又は睡眠のために利用することができる施設の整備等)のほか、事業用自動車の定期的な点検及び整備などの事業用自動車の安全性を確保するために必要な事項を遵守しなければならないことが明記されました。

⑶ 荷主対策の深度化

運送事業者の努力だけでは過労運転や過積載等を防ぐことが困難であることから、荷主においても、運送事業者が法令を遵守して事業を遂行することができるよう必要な配慮をしなければならない旨の規定が新設されました。

また、国土交通大臣は、運送事業者が法令違反をする原因となるおそれのある行為を荷主がしている疑いがあると認めるときは、荷主に対し、違反原因行為をしないよう要請することができる等、国土交通大臣から荷主への働きかけ等の規定も新設されました。

⑷ 標準的な運賃の告示制度の導入

貨物自動車運送事業者は、大半が中小事業者であり、荷主への交渉力が弱い立場にあります。

そこで、国土交通省は、令和2年4月、運送事業者が事業を行う際の参考となる運賃として「標準的な運賃」を定めました。

「標準的な運賃」を活用することで、事業継続に必要なコストに見合った対価を収受することができるようになり、運転者の労働環境の改善、運送事業者の法令順守の徹底が期待されます。

以上