西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

  1. ホーム
  2. 事務所だより
  3. 民事裁判におけるインターネットの利用が進みます

民事裁判におけるインターネットの利用が進みます

弁護士 松森 彬

1.民事裁判のIT化

⑴ 民事裁判の分野でのインターネットの利用

民事裁判のIT化(インターネットなどの電子技術の利用)とは、①訴状などの書面をオンラインで提出すること、②口頭弁論などをウェブ会議で行うこと、③裁判所での記録の保存を電子データで行うことなどをいいます。

民事訴訟法が昨年5 月に改正され、機器や体制の準備ができた手続から実施されます。全面的に実施されるのは2025年(令和7 年)度になる予定です。

⑵ 裁判の特性を踏まえる必要

IT化は、紙資源の節約になり、迅速性や利便性の点でメリットがあります。ただ、裁判の場合は、公開が必要であること、コミュニケーションが重要であること、審理の仕方について当事者に権利があることなどの特性がありますので、これらを考慮する必要があります。

大阪弁護士会がアメリカの視察に行ったとき、裁判官を説得するためには裁判所に行く必要があるという弁護士の意見があったようです。対面のコミュニケーションの重要性を指摘するものとして、面白く思いました。

2.書類のオンライン提出

訴状や準備書面の提出は、これまでは持参、郵送、ファクシミリの方法がとられていました。今後はインターネットで書面の提出ができるようになります(施行時期は2022年5 月25日の公布から4 年以内の政令で定める日です)。

3.ウェブ会議・電話会議

当事者や弁護士は、裁判所に出頭しなくても、ウェブ会議を利用して裁判手続をすることができるようになります。(施行時期は手続によって異なります。)

⑴ 弁論準備手続の期日と和解の期日(既に始まっています

裁判所は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、ウェブ会議又は電話会議によって、弁論準備手続の期日と和解の期日における手続を行うことができることになります(法170条3 項、法89条2 項)。ウェブ会議を希望しない当事者は裁判所での手続に参加することができます。

この改正は今年の3 月1 日から既に施行されており、私たちもウェブ会議で裁判をすることが増えています。

⑵ 口頭弁論期日

裁判所は、口頭弁論の期日についても、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、ウェブ会議又は電話会議で行うことができるようになります(法87条の2 )(地方裁判所の施行日は2022年5 月25日の公布から2 年以内の政令で定める日です。また、家庭裁判所の施行日は、民事訴訟での施行日から1 年6 か月以内に政令で決める日です)。

⑶ 離婚の和解や調停の成立等

家庭裁判所における人事訴訟と家事調停についても、ウェブ会議を利用して離婚などの和解や調停を成立させることができるようになります(施行は2022年5 月25日の公布から3 年以内の政令で決める日です)。

⑷ 証人尋問・当事者尋問は限定的

ウェブでの審理は、法廷での現実の審理に比べて、コミュニケーションが十分にできないと言われています。画面越しの尋問では追及がしにくいことなども指摘されています。

そこで、ウェブ会議で人証調べを行うのは、その人の住所、年齢、心身の状態などから裁判所に出頭するのが困難である場合や、双方当事者に異議がない場合など、相当と認められる場合に限られます(法204条)。

4.訴訟記録は電子データで保管

裁判所の訴訟記録は、電子データで保管されることとなります(施行は2022年5 月25日の公布から4 年以内の政令で決める日です)。

5.IT化以外の改正

民事訴訟のIT化と関係はありませんが、昨年の民事訴訟法の改正で次の2 つの制度ができました。

⑴ 住所、氏名等の秘匿制度

当事者等が配偶者暴力(DV)や性犯罪の被害者等である場合に、住所、氏名等を相手方に秘匿したまま民事訴訟手続を進めることができるようになりました。住所や氏名が相手方等に知られることによって、「申立をする人やその法定代理人(親権者等)が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるとき」に認められます。この制度は今年の2 月20日から施行されています。

⑵ 法定審理期間訴訟手続

当事者双方の申出・同意がある場合に、手続開始から6か月以内に審理を終結し、そこから1 か月以内に判決をする手続が創設されました。消費者契約事件や個別労働事件は対象外です。この手続は、主張と立証が事実上、制限されます。

そこで、当事務所のブログでもご説明しましたが、相手方の主張と証拠が全部明らかになっているような特別な場合を除き、通常の事件には向いていない手続です(施行時期は2022年5 月25日の公布から4 年以内の政令で決める日です)。