大学生の急性アルコール中毒による死亡事故の裁判について
1.事案の概要
平成29年12月、大阪府内の私立大学に通う学生らが所属するテニスサークルの飲み会に参加したAさん(当時20歳)が、その後、急性アルコール中毒で死亡する事件が起きました。
この飲み会には、2 回生及び3 回生10名ほどが参加していました。
Aさんは、ビールを数杯飲んだ後、複数のショットグラスに入ったウォッカを一気飲みしました。一気飲みは、一度だけではありませんでした。一気飲みの際、Aさんは、他の学生らから、一気飲みを囃し立てる「コール」を受けていました。
Aさんは、飲み会の途中で泥酔状態になり、他の学生らからの呼びかけに応じなくなりました。
飲み会の後、飲み会に参加していなかった2 回生の学生らが、飲み会の後片付けのために店に呼ばれ、店内で、泥酔して意識のないAさんを見つけ、Aさんの介抱を行いました。
飲み会後に店を訪れた2 回生の学生らは、飲み会に参加していた3 回生の学生らに、救急車を呼ぶかどうかの相談をしましたが、3 回生の学生らは、大丈夫等と言って、Aさんを店の近くに住むサークルメンバーの下宿先に運ぶよう言いました。その後、Aさんは、飲み会後に店に呼ばれた学生数名によって、サークルメンバーの下宿先に運ばれました。
Aさんは、翌朝、息をしておらず、病院に搬送されましたが、急性アルコール中毒が原因で死亡しました。
Aさんの両親は、令和2 年7 月、学生らが通う大学及び学生ら(飲み会に参加していた学生10名及び飲み会後に店を訪れた学生8 名)に対し、大阪地方裁判所に損害賠償請求訴訟を提起しました。
当事務所は、飲み会後に店を訪れた学生のうち1 名から依頼を受け、裁判に関わりました。
2.大阪地裁の判決
大学との間では、再発防止策を実施する等の内容で、判決前に和解が成立しましたが、学生らとの間では、和解は成立せず、判決になりました。
大阪地裁は、飲み会に参加していた学生10名及び飲み会後に店を訪れた学生8 名のうち6 名に対し、救急隊の出動を要請する義務を負っていたとして、救護義務違反を理由に、合計約4200万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
判決では、飲み会後に店を訪れた学生について、Aさんが急性アルコール中毒に陥っており、放置すれば死亡する危険のある状態であることを認識することができたにもかかわらず、救急隊の出動を要請せず、Aさんをサークルメンバー宅に運び、その場を後にしたことについて、救護義務違反が認められました。
他方、Aさんの飲酒量及び飲酒態様は分別を欠いた無謀なものであり、Aさんにも過失があったとして、7 割の過失相殺が認められました。
当事務所が依頼を受けた学生については、飲み会後に店を訪れた後、もっぱら飲み会の後片付けをしていて、Aさんの介抱や救急車を呼ぶかどうかの話し合い、サークルメンバー宅への運び込みに関与していなかったことから、救護義務違反はなかったとして、賠償責任が否定されました。
この大阪地裁の判決について、賠償責任が認められた被告のうち数名が判決を不服として控訴をしました。
3.最後に
今回の民事裁判で被告になった学生らのうち9 名(飲み会に参加していた学生のうち4 名及び飲み会後に店を訪れた学生のうち5 名)は、過失致死罪で罰金刑の略式命令を受けています。
まだ酒に慣れていない学生が、大学のサークル等の飲み会で泥酔し、急性アルコール中毒等により死亡する事故は後を絶ちません。
一気飲み等の間違った飲酒方法をしない/させないとともに、泥酔者を見つけたら、ためらわずに救急車を呼ぶことが求められます。