西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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物流の2024年問題

弁護士 松森 彬

1 「物流の2024年問題」とは

今年4月からトラックドライバーの残業時間の規制が始まります。年間960時間、1か月平均80時間が上限になります。現在、かなりのドライバーがこの規制時間を超えて残業しています。

一人あたりの運転時間が制限されますので、今後、全国の運送業の輸送能力が不足して、物を運べなくなったり、配達が遅れたりするのではないかと言われています。何も対策をしなければ、2030年には34%の輸送力不足に陥るといわれています。これが「物流の2024年問題」です。

2 働き方改革による長時間労働の抑制

少子高齢化が進み、いわゆる現役世代が少なくなっています。そのなかで、仕事と子育て、介護などとの両立ができる働き方のニーズが高まっています。また、長時間労働は健康を害しますので、その抑制が必要です。

そこで、2018年に「働き方改革関連法」ができ、残業時間の上限規制、年5日の有給休暇の取得の義務付け、非正規労働者の待遇の改善などが決まりました。残業時間は、それまで規制はなく、労働基準法ができて以来の大改革でした。

ただ、運送業は長距離運送などがあり、残業の規制は早期の対応が難しいとして、5年間、適用が猶予されてきました。他に、建設業と医師も適用が猶予されてきました。

3 運送業も今年4月から残業時間の上限などを規制

今年3月で猶予が終わり、いよいよトラックドライバーにも働き方改革関連法が適用されます。

(1)残業時間の上限規制

残業とは、1日8時間、1週間40時間を超えて働くことを言います。残業は法律では原則禁止ですが、労使が「36協定」で合意をすれば、労働者に残業をさせることが認められます。

残業時間の上限は、一般的には年間360時間までですが、運送業だけは年間960時間までと緩やかな規制にされています。

残業時間の規制は罰則もあります。会社が違反すれば、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。

(2)拘束時間の規制の強化

また、拘束時間等についての告示が改正されました。ドライバーの始業から終業までの拘束時間(労働時間と休憩時間の合計)は、これまでは原則13時間以内、最大16時間以内でしたが、4月からは、原則は同じですが、最大が15時間以内に規制されます。

宿泊を伴う長距離運行は週2回まで16時間(14時間超は1週間2回以内)です。長距離輸送の場合、これまでと同じ運行では、告示違反になる場合が出てきます。

(3)残業の割増賃金の引き上げ

月60時間を超える残業時間についての割増賃金率は、かつては25%でしたが、昨年4月から50%に引き上げられました。

4 国、運送事業者、荷主に対策が求められる

物流は大変重要な社会インフラです。ただ、それを支えるトラックドライバーは労働時間が長く、平均賃金は他の産業より低いことがわかっています。そこで、かねてから深刻なドライバー不足が指摘されてきました。

政府も、この問題の重大さを認めており、国土交通省は、2023年6月に「商慣行の見直し、物流の効率化、荷主・消費者の行動変容」の3つを柱にした対策をまとめました。今年2月13日には、「物流総合効率化法」と「貨物自動車運送事業法」の改正案が閣議決定されました。改正法では、荷主と運送事業者に対して、物流効率化のために取り組むべき措置について努力義務が課される予定です。

対策の一つである「商慣行の見直し」とは、これまでドライバーがサービスでしていた積み込み等の作業を荷主側が行うことや、トラックが積み降ろしの順番を待つ荷待ちの時間を削減することなどです。

また、ドライバーは、残業が減って働きやすくなる一方で収入が減る懸念があります。ドライバーの待遇改善のためには、荷主側から妥当な運賃が支払われることが必要です。そこで、国交省は3月に標準的運賃を8%引き上げるとしています。

消費者も、再配達の削減などについて理解と協力をする必要があるかもしれません。

運送業は中小企業が多く、運送事業者だけで解決するのは難しいと思われます。国の施策、運送事業者と荷主の双方による対策、消費者の理解などにより、運送業の働き方改革を実現するとともに、物流が停滞しないようにすることが求められます。