労働時間についての裁判例
1.「労働時間」とは
近年、未払残業代請求訴訟は増加傾向にあり、その理由は、インターネットによる情報収集が容易になったことや、転職が一般化して退職労働者からの請求がされるようになったことにあるとされています。
残業代は労働時間数をもとに計算されることから、残業代請求においては、しばしば、当該活動時間が労働時間にあたるのかどうか(労働時間性)が問題になります。
裁判所は、労働時間を「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」と定義したうえで、具体的事案に即して労働時間性を判断しています。
以下では、労働時間性が問題になった裁判例をご紹介します。
2.労働時間性に関する裁判例
⑴ トラック運転手の待機時間
ア【平成26年4月24日横浜地裁相模原支部判決】
午後1時頃に1回目の配送を終えて工場に戻り、概ね午後2時半頃に2回目の配送伝票が出るまでの間、工場内の部屋での待機時間の労働時間性について
≪裁判所の判断≫ 該当
2回目の伝票が出てくる時間は必ずしも特定されておらず、担当者から伝票を渡されたら、直ちに伝票を持って出荷場に移動しなければならないこと等から、待機時間は使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、その待機時間中にトイレに行ったり、コンビニエンス・ストアに買い物に行くなどしてトラックを離れる時間があったとしても、休憩時間であると評価するのは相当ではなく、労働時間に該当する。
イ【平成18年6月15日大阪地裁判決】
長距離運転手に関して、午後0時前に往路の配送作業が終わった後、午後6時頃に復路の仕事に入るまでの待機時間の労働時間性について
≪裁判所の判断≫ 非該当
待機時間において、運転手は、自由に過ごすことができ、その間、食事の際には飲酒もすることもできるし、パチンコをすることもあり、突然仕事の指示があっても、これに応じるか応じないかは運転手が判断することが許されていたものであり、労働時間には該当しない。
⑵ 就業時間前後の更衣時間、移動時間
【平成12年3月9日最高裁判決(三菱重工事件)】
①終業時間前後の作業服及び保護具等の着脱時間、②更衣所から作業場への移動時間の労働時間性について
≪裁判所の判断≫ いずれも該当
就業規則において、始業に間に合うように更衣等を完了して作業場に到着し、終業後に更衣等を行うものと定められており、また、勤怠は更衣を済ませ始業時に作業場にいるか否かを基準として判断されることからすると、①及び②の時間は使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ、労働時間に該当する。
⑶ 不活動仮眠時間
【平成14年2月28日最高裁判決】
24時間勤務でビルの警備・設備運転保全業務を行う労働者の仮眠室での8時間の仮眠時間の労働時間性について
≪裁判所の判断≫ 該当
警報が鳴った場合は設備の補修等の作業に就くことを要する点で労働からの解放がなく、使用者の指揮監督下にある労働時間と解すべきものとされる。
※令和5年4月14日東京地裁判決も、同様の判断をして、オフィスマンションタワーの当直設備員の仮眠時間について、労働時間性を認めた。
⑷ 企業の行事、研修活動
【昭和58年2月14日大阪地裁判決】
①毎週土曜日1~2時間の趣味の会活動、②研修会等の労働時間性について
≪裁判所の判断≫ ①は非該当、②は該当
①について...参加するかどうかは従業員の自由に委ねられており、参加していない者もあったこと、会社において出欠をとることはなく、欠席したことを理由に不利益を課せられるようなこともなかったことからすると、労働時間には該当しない。
②について...会社の業務として研修会が開かれており、労働時間に該当する。
※なお、就業時間外の職業訓練について、労働省(当時)からの通知では、「就業規則上の制裁等の不利益取扱による出席の強制がなく自由参加のもの」であれば労働時間には当たらないとされている(平11・3・31基発第168号)。