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「懲役」と「禁固」は廃止され、「拘禁刑」ができました

弁護士 松森 彬

1 「拘禁刑」という新しい刑罰ができました

罪を犯した人への刑罰である「懲役」と「禁固」が廃止され、6 月1 日から「拘禁刑」という新たな刑罰に一本化されました。3 年前の刑法の改正で決まっていましたが、いよいよ施行になりました。

拘禁刑は、6 月1 日以降に起きた事件や事故に適用されます。これまでは、「懲役○年に処する」あるいは「禁固○年に処する」という判決でしたが、これからは「拘禁刑○年に処する」という判決になります。

刑法が明治40年に制定されて以来、刑罰が変わるのは初めてです。どう変わるのか、改正された理由は何かをご説明します。

2 これまでの懲役刑と禁固刑

懲役刑は、刑務所での労働(木工、金属加工、織物製造、革加工など)が義務づけされていました。労働(作業)をさせるのは、いわば懲らしめでした。わずかの作業報奨金が出ますが、1 か月平均4500円ほどで、原則として出所時に支払われます。

これに対して、禁固刑は、労働(作業)をする義務はありません。禁固刑は、内乱罪などの政治犯と交通事故などの過失犯について定められていますが、これらの罪で実刑判決を受ける人は、ごく僅かです。

2022年に懲役の実刑判決が確定した人は1 万4410人(99.7%)でしたが、禁固刑を受けた人はわずか44人(0.3%)でした。しかも、禁固刑の受刑者も何もしないのは苦痛であるとして、8 割以上の人が作業を志願して働いています。

このように、禁固刑の受刑者は少数であるうえ、実態もあまり変わらないことから、以前から一本化の議論がありました。

3 拘禁刑とは

拘禁刑は、懲役刑と禁固刑を統合する形で新設された刑罰です。刑務所に拘置して自由を奪う刑罰であるという点では、懲役刑や禁固刑と同じです。

ただ、拘禁刑には、懲らしめの意味合いの労働(作業)は無く、「改善更生を図るため、必要な作業を行わせ、又は必要な指導を行うことができる。」(改正刑法12条)ことになりました。

懲役刑の場合、改善更生や社会復帰のために指導する時間を確保しにくかったのですが、拘禁刑では、受刑者の年齢や資質、障害の有無などに応じて作業と指導を行うことができるようになりました。

4 改正のねらい(「立ち直り」と「再犯の防止」)

(1)再犯の防止

拘禁刑が新設され、それに一本化された一番の理由は、受刑者の立ち直りの指導に重点を置き、再犯を防止することです。

日本では、刑法犯は2002年をピークにして減少する傾向にありますが、罪を繰りかえす人が増えていて、高止まりになっています。2023年に刑務所に入った人の55%が2 回目以上の入所でした。

ちなみに、現在の刑務所の受刑者の人数は、約3 万3000人で、一時期よりだいぶ少なくなりました(令和6 年版犯罪白書)。罪名は、窃盗が一番多く、次いで覚せい剤取締法違反、詐欺、道路交通法違反などです。

受刑者の特徴を一つ指摘しますと、約半数が中卒です(河合幹雄「終身刑の死角」洋泉社新書、46頁)。高齢者や病気を持っている人、知的障害がある人など、本来、福祉の支援が必要な人も少なくないようです。

(2)刑罰のあり方の見直し

また、懲役刑が見直されることになった背景には、刑務官(刑務所職員)による暴力事件や虐待があります。名古屋刑務所では2001年に刑務官らが受刑者に放水して死亡させるという事件がありました。

刑務所内の秩序を維持するため、日本では軍隊式のやり方で生活を規制しています。起床から就寝まで、すべて号令のもとで集団行動をします(河合・前掲51頁)。

私は、司法修習のときに刑務所内を見る機会があり、受刑者の生活について説明を受けました。約50年前のことで、今は変わっているかもしれませんが、当時は、受刑者に何もしないときは正座するよう命じており、そこまで規制するのかと思いました。

これまでの懲役刑では、労働は懲らしめ(懲罰)であり、決まったことをさせることに重きがありました。労働(作業)の内容も社会復帰後の生活とは無縁のものであったようです。

新しい拘禁刑では、受刑者が出所した後に社会復帰ができるように、それぞれの受刑者の年齢や特性に応じた作業と指導が用意されます。イタリアやノルウェーでは、受刑者が刑務所の外に出て働く機会を設けるなど、受刑者と地域の交流を増やして再犯率を下げた例もあるようです。

日本でも、新たにできた拘禁刑で、罪を犯した人の更生改善と社会復帰に役立つ処遇や指導を実践していくことになります。