第三者委員会について
1.第三者委員会とは
近年、「第三者委員会」という言葉をよく耳にします。フジテレビや兵庫県の知事をめぐる問題でニュースにたびたび登場しました。
第三者委員会とは、企業や官公庁等の組織で不祥事や不正等が疑われる場合に、利害関係のない独立した立場から、事実関係等を調査し、不祥事の原因の分析や再発防止策等の提言をするために立ち上げられる委員会のことです。
企業や組織と利害関係をもたない外部の専門家等により構成されるという点で、「内部調査委員会」と呼ばれるものとは異なります。
内部調査委員会は、企業内部の経営者や従業員などを中心に、弁護士などの外部有識者を加えて組織されます。第三者委員会に比べて独立性が劣ります。
第三者委員会は法律に特段の規定はなく、法律が設置を求めているものではありません。
ただ、日本弁護士連合会が「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」(以下「ガイドライン」)を作成しており、多くの第三者委員会はガイドラインに沿って設置・運用されています。
そこで、以下では、この日弁連が設けたガイドラインの概要についてご紹介します。
2.ガイドラインの概要
⑴ 第三者委員会の目的
日弁連のガイドラインでは、第三者委員会の目的について、すべてのステークホルダー(企業が経営をするうえで、直接的または間接的に影響を受ける利害関係者のこと)のために調査を実施し、その結果をステークホルダーに公表することで、企業等の信頼と持続可能性を回復することとされています。
すなわち、第三者委員会による調査は、発生した不祥事の実態の調査を実施し、事実認定を行い、これを評価して原因を分析し、不祥事を発生させた根本原因を明らかにするためのものです。
関係者の法的責任を判定・追及したり、経営に対して意見を具申したりするものではありません。
⑵ 構成委員
企業等と利害関係を有する者は委員に就任することができません。例えば、企業等の顧問弁護士は「利害関係を有する者」に該当します。
委員の数は3 名以上を原則とし、弁護士の他に、学識経験者や公認会計士等が委員として加わることが望ましいとされています。
⑶ 企業等の協力
第三者委員会の調査は法的な強制力をもたない任意調査ですので、企業等の全面的な協力が不可欠です。
そこで、第三者委員会は、受任に際して、企業等が所有する資料、情報、社員へのアクセスを保障することや、第三者委員会による調査に対する優先的な協力を従業員等に対して業務として命令すること等を企業等に求めるものとされています。
⑷ 報告書の記載内容
調査報告書の起案権は第三者委員会に専属し、第三者委員会は、調査により判明した事実とその評価を、企業等の経営陣に不利となる場合であっても、調査報告書に記載することとされています。
第三者委員会の依頼者は、当該企業等であり、第三者委員会の委員に対する報酬は企業等から支払われますので、企業等に不利な事情を記載することについて、委員が戸惑いを感じることもあり得ます。
もっとも、第三者委員会の目的は上記⑴のとおりであり、実質的な依頼者はすべてのステークホルダーですので、企業等の信頼と持続可能性を回復するために、企業等に不利な事情であっても記載することが求められます。
⑸ 資料等の処分権
調査において収集した資料等をどのように扱うかの判断(処分権)は第三者委員会が専有するとされています。
調査において収集した資料等が企業等に提供されて従業員の処分や人事評価等に使用されることになれば、調査への協力を得ることが困難になり、ひいては不祥事の実態を究明するという第三者委員会の目的が損なわれることになるからです。
もっとも、事案によっては役員等の法的責任の追及のために資料等を提供する必要性が認められる場合もあります。
この場合には、第三者委員会の判断で資料等を企業等に提供することも可能ですが、調査に際してあらかじめ調査対象者に提供の可能性がある旨を告知することが必要であるとされています。
3.第三者委員を経験して
第三者委員会の歴史はまだ浅く、本稿で紹介したガイドラインも第三者委員会の設置・運用について大枠を記載したものに過ぎません。
私は、これまで、学校における重大ないじめや事故が生じた事案で第三者委員会の委員を担当しました。第三者委員会が調査する案件は千差万別で、実際にどのように調査を進めていくかはケース・バイ・ケースです。子どもからの聴き取り一つとっても、聴き取りの場所、椅子の位置関係、尋ね方等、どのような方法がベストかを常に検討しながら進めています。
第三者委員会の調査能力に限りがあるのも事実ですが、決して企業等の傀儡である等の批判を受けることのないよう、第三者委員会には、全てのステークホルダーのために、独立した立場で徹底した調査・提言をすることが求められます。