事務所ニュース [2019年12月号]

婚姻前の姓の通称使用を認める動きが広がっています

弁護士 高江俊名

1 夫婦同姓を定める民法の規定と最高裁判決

 民法は、「夫婦は、婚姻の際に定めるところに従い、夫又は妻の氏を称する」と定めています(民750)。この規定により、日本では、現在のところ、法律上は、夫婦は同じ姓を称するものとされています。

 この夫婦同姓を定める民法の規定については、夫婦別姓を認めないのは憲法に反するとして争われ、最高裁判所の判断が示された裁判があります。

 最高裁は、2015年12月16日の判決で、民法750条の規定は憲法に反するものではないと判断しましたが、15人のうち5人の裁判官は、夫婦同姓に例外を認めない民法750条の規定は、個人の尊厳と両性の本質的平等の要請に照らして合理性を欠き、憲法に反するとの反対意見を述べました。3人の女性裁判官は全員、憲法違反と判断しましたので、最高裁の15人の裁判官の中に女性裁判官がもっと多ければ、結論が変わったかもしれません。

 また、合憲であるとした多数意見も、理由の中で、次のように述べましています。

 「夫婦同氏制は、婚姻前の氏を通称として使用することまで許さないというものではなく、近時、婚姻前の氏を通称として使用することが社会的に広まっている。」

 「婚姻によって氏を改める者にとって、そのことによりいわゆるアイデンティティの喪失感を抱いたり、婚姻前の氏を使用する中で形成してきた個人の社会的な信用、評価、名誉感情等を維持することが困難になったりするなどの不利益は、このような氏の通称使用が広まることにより一定程度は緩和され得るものである。」

 

2 住民票やマイナンバーカードなどでの旧姓併記が可能に

 この最高裁判決が出された後、婚姻前の姓を通称として使用することを認める動きが社会的に広がっており、裁判所においても、2017年9月から、判決書等の裁判関係文書に記載される裁判官の氏名について、婚姻前の旧姓を職務上の姓として記載することが認められるようになっています。

 また、政府は、住民票やマイナンバーカード等に旧姓の併記を可能とする方針を打ち出し、2019年4月17日、そのための住民基本台帳施行令等の一部を改正する政令が公布され、2019年11月5日から施行されています。住民票やマイナンバーカードを所管する総務省のホームページでは、「これにより、婚姻等で氏(うじ)に変更があった場合でも、従来称してきた氏をマイナンバーカード等に記載し、公証することができるようになるため、旧氏を契約など様々な場面で活用することや、就職や職場等での身分証明に資することができるものと考えています。」と述べられています。身分証明としてよく用いられる運転免許証についても、旧姓を記載できるようにする方向で警察庁が準備を進めているようです。

 こうした政府の方針は、夫婦同姓を定めた民法750条の規定を改正するものではありませんし、現段階では、婚姻前の旧姓使用が、社会生活上の全ての場面で認められるようになったわけではありません。

 ただ、住民票やマイナンバーカード等に旧姓併記が可能になったことで、婚姻前の旧姓使用が認められる場面が広がっていけば、今後、夫婦同姓を定めた民法750条の規定は、改正はされなくても、次第に形骸化していくようになるかもしれません。


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