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運送法(運送に関する商法の規定)が改正されました

 

 1 商法制定以来120年ぶりの改正

 商法は、運送営業などの商行為についての基本的なルールを定めていますが、運送営業について定められた規定は、1899年(明治32年)に商法が制定されて以来、約120年間にわたって実質的な見直しがほとんど行われていませんでした。

 商法が制定された明治時代は、航空運送はなかったため、「運送人トハ陸上又ハ湖川、港湾ニ於テ物品又ハ旅客ノ運送ヲ為スヲ業トスル者ヲ謂フ」と定められ、航空運送については定められていないなど、社会経済情勢の変化に対応できていないままになっていました。

 そうしたことから、このたび、運送営業などに関する商法の規定が改正されました。改正された商法は、2019年4月1日から施行されています。

 以下では、主な改正内容についてご説明します。

 

2 航空運送と複合運送について商法の適用

 運送営業について、陸上運送、海上運送、航空運送の三つに整理するとともに、それらを組み合わせた複合運送が行われることも想定し、航空運送と複合運送にも商法の規定が適用されるようにしました(569条、578条)。

 改正商法は、例えば、運送されて届いた荷物を開けてみたら中身が壊れていたという場合、荷物を受け取ってから2週間以内に運送業者に対してそのことを伝えなければ、損害賠償請求ができなくなると定めています(584条1項)。この規定は航空運送や複合運送にも適用されることになります。

 

3 運送業者の責任の消滅期間が5年から1年に短縮

 改正前の商法では、運送業者が運んだ荷物が壊れていたような場合、運送業者は、受取人に荷物を引き渡してから最長で5年間、責任を負わなければなりませんでした。

 今回の改正では、膨大な量の荷物を取り扱う運送業者のリスク管理の観点から、運送業者の責任は、荷物を引き渡してから1年以内に裁判上の請求がされなければ消滅するものとされました(585条)。

 したがって、運送を依頼する側からすれば、運送によって荷物が壊れた場合は、荷物が届けられてから2週間以内にそのことを連絡した上、運送業者との間で話し合いで解決がつかない場合は、荷物が届けられてから1年以内に裁判上の請求手続をとる必要があります。

 

4 危険物についての通知義務(新設)

 現代の社会では、科学技術の発展に伴って危険物の種類が多様化しています。また、封印されたコンテナによる運送のように、運送業者において、運送物の中身がわからない状態で運送することも一般的になっており、運送過程で危険物の取扱いを誤った場合の損害が極めて大きなものになることもあります。

 しかし、改正前の商法には、荷物が危険物である場合の送り主の通知義務に関する規定はありませんでした。

 そこで、今回の改正により、送り主は、荷物が危険物(引火性、爆発性などの危険性がある物)であるときは、運送業者に対し、危険物の安全な運送に必要な情報を通知しなければならないこととされました(572条)。

 通知をしなかったことによって事故が発生し、運送業者に損害が発生した場合は、送り主は、運送業者に対する賠償責任を負うことになります。

 

5 旅客運送業者が定める人身損害についての免責規定は無効

 運送業者が、事故が起こった場合の賠償額について上限を定めていることがありますが、旅客運送において、乗客の生命や身体が侵害されたような場合、そのことによる損害額は、運送業者の側が一方的に定めた規定によって上限を定められるべきものではありません。

 改正前の商法では、そのような運送業者の免責規定を規制するような定めは設けられていませんでした。

 そこで、今回の改正において、旅客の生命・身体という重要な利益についての損害賠償が不当に制約されることを防止するため、旅客の生命・身体が損なわれた場合の運送業者の損害賠償責任を軽減したり免除したりする特約は、無効とすることが定められました(591条)。