西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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遺言があるために、もめることがあります

1 最近、遺言について書いた記事が週刊誌などにたくさん出ています。高齢化社会になり、関心を持つ人が増えているためと思われます。記事の多くは、遺言を勧めており、なかには「遺言は書くのが常識」とあおっているものもあります。しかし、私は、遺言は内縁の夫婦や子のないときなど書いておく必要がある場合もありますが、必ず書くべきであるとまでは思いません。それは、遺言をめぐる争いをたくさん見てきたからです。遺言を書くように言うのは、公正証書遺言を書くのを職業にしている公証人や、弁護士以外の士業の人が多いように思います。弁護士は、書く場合も、もめないように工夫すること、たとえば生前から話しておくように助言する人が多いように思います。

2 週刊朝日が「死後の手続き」というシリーズで遺言を取り上げていて、取材があり、遺言をめぐる紛争を説明しました。また、大阪弁護士会の「遺言・相続センター」が出している「遺言相続の落とし穴」という本を紹介しまして、遺言の危険性も書いてほしいと言いました。週刊朝日の2019年3月15日号に私の説明が掲載されましたので、ご紹介します。

■遺言に対する全般的な考え

 「子どもがいなくて配偶者にすべて相続させたい場合や、事業資産を特定の後継ぎに承継させたい場合など、遺言が効果的なケースはあります。一方で、相続人が配偶者と子だけで、子に平等に相続させたければ遺言は不要といえます。どの財産をだれに、と指定したい点もあるかもしれませんが、事情が変わる場合もあり、かえってもめる恐れがあります。遺言があれば紛争にならない、と考えるのは早計です。遺言は、それが原因でもめることも覚悟のうえで、自分の遺志として残したい内容があるかをよく考えて作るべきだと思います」

■遺言があるともめる理由

「①書いてから死亡まで、数年あるいは10年以上も経過します。その間に介護など様々な事情が変わり、内容の妥当性が失われることがあり、相続人が不満を持ちます。②遺留分制度がありますので、遺言のとおりにはできるとは限りません。また、遺留分が確保されても、多い人と少ない人ではかなり差がつきますので、不満が出ることがあります。③遺言を書く人と相続人の間で、差を設ける理由や土地の評価などについて認識にズレのあることがあります。④複数いる子の一人が親に遺言の作成を頼む場合があり、親の本意かどうかが微妙で、そのような場合も紛争になることが多いと思います。」

■遺言より生前のコミュニケーションを

 「遺言を書く場合は、相続人の間で差をつける分け方を指定することが多いと思います。ただ、その分け方の理由を書いても、納得しない相続人が出てきます。生前から口頭で考えを伝え、了解を得るのがよいでしょう。遺言に頼るのではなく、生前のコミュニケーションに力を入れることが大事だと思います。また、遺言は、状況の変化に応じて書き換えることも必要ですが、公正証書遺言は費用や手間がかかることもあって、何度も作成するのは面倒です。それが相続の争いを生む一因にもなっています」

3 エンディングノートの勧め

私は、遺言は必要があるときに書くのがよいと思いますが、エンディングノートは、できるだけ書いておくのがよいと思います。エンディングノートは、いざというときのために、終末期医療についての希望、葬儀の仕方、親族、友人、銀行口座その他財産の明細などを記載するものです。遺言は残さず、エンディングノートに財産の明細を記載して相続人で仲良く協議して分割することを求めるのも、紛争を生まない一つの方法だと思います。なお、エンディングノートに財産の分け方について書くと、自筆証書遺言に当たらないかという問題が生じます。遺言として書くときは正式に遺言として書くことにして、エンディングノートには具体的な財産の分け方について書くのは避けるべきです。(弁護士 松森 彬)