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裁判官制度を考えるシンポジウムが開かれました

1 2024年9月3日に大阪の弁護士会館で、「今こそ裁判官制度を考える これからの裁判官のために守るべきものとは(裁判官制度の現代的課題と司法改革の進むべき道)」というシンポジウム(大阪弁護士会主催、日本弁護士連合会共催)が開かれました。弁護士や市民など160人が会場あるいはズームで参加されました。

2 最初に基調講演を、元大阪高等裁判所判事で現在弁護士の井戸謙一氏と津地方裁判所判事の竹内浩史氏の2人がされました。

井戸氏は、決めることができるという裁判官の仕事に魅力を感じて、裁判官になったということでした。井戸氏は1979年から2011年までの32年間の裁判官時代に、住基ネット違憲訴訟や志賀原発2号機運転差止訴訟など社会的に耳目を集めた訴訟も担当されました。井戸氏は、そのような事件でも、あくまでもその訴訟において主張立証が果たされているかという問題に集中し、社会的影響には気を配らないようにしたと話されていました。私も、それが裁判官としては正しい姿勢であろうと思います。

井戸氏は、裁判所では、かつては重要なことは裁判官会議で決めていたが、官僚組織になり、任地、ポスト、給与のすべてを最高裁人事局が握る状況になっていると話されました。そのため、裁判官は裁判所の評価を気にして仕事をするように追い込まれ、閉塞感を感じるかもしれないということでした。

竹内浩史氏は、16年間弁護士をしたあと、2003年に裁判官に任官されました。司法改革で弁護士から裁判官への任官を推進することになりました。竹内氏は、この制度の意義を感じて任官されたお一人です。

竹内氏は、裁判官にはもっと自由が要るという話をされました。竹内氏は、弁護士時代からブログを設けておられますが、裁判所は、裁判官がブログをすることを嫌がっているように思うと話されました。

また、竹内氏は、名古屋から津に転勤したことで地域手当が減ったことについて、裁判官は在任中、報酬を減額されないという憲法80条2項に反するとして、違憲訴訟を起こしておられます。

3 パネルディスカッションは、朝日新聞記者の阿部峻介氏も加わり、弁護士の坂本団氏が司会をして、「これからの裁判官のために守るべきものとは」というテーマで行われました。

最初に「裁判官のなり手がない、あるいは途中でやめるのはなぜか」について討論がされました。

裁判官の定員は裁判所職員定員法で決まっており、最高裁は、毎年定員を少しずつ増やしてきましたが、それだけの新人を採用できず、また、途中でやめる人も結構あり、定員を充足できない状態が長年続き、2022年に最高裁は定員を減らしました。日弁連は、裁判を良くするため、2003年に裁判官を倍増するように求める意見書を出していますが、これでは到底達成できません。裁判官は判事補を10年して判事になります。判事補は、2013年は848人でしたが、2023年は676人です。最高裁は、判事補の定員を2022年に1000人から842人に減らしましたが、定員は埋まらず、欠員の割合は2割前後にもなります(朝日新聞2024年2月19日記事)。

裁判官のなり手がない、あるいは途中でやめる原因としては、ライフスタイルが変わり、転勤が嫌だという人が増えているという指摘がありました。転勤になり単身生活が6年にもなるとやめる人が出てくるということでした。 

また、仕事の面で裁判官の魅力が薄れているという指摘がありました。原発訴訟について最高裁が会同を開いていますが、個々の裁判官の判断に影響していると思うとの意見がありました。

どうすればよいかについては、かつては裁判官にも青法協や裁判官懇話会などの団体があり、そこで自由な議論がされました。今も裁判官による自主的な研修会はある方がよいと思う、地域的に集まるのであれば実現できるのではないか、という提案がありました。フランスには裁判官の組合があり、ドイツでは原発反対のデモに裁判官も参加すると聞いたことがあります。日本でも、もっと裁判官の市民的自由が保障される必要があると思います。

差別もあるようです。弁護士から任官した裁判官は、部総括(裁判長)になるのが、キャリアの裁判官に比べて遅いようです。出世をしたいわけではないが、人並みには昇給や経験をしたいという気持ちはわかります。

さらに、裁判所が採用のときに成績を重視しすぎているという指摘がありました。今の裁判所は、優等生集団であり、優等生司法になっているという意見もありました。同じような価値観の人で固めているということでしょうか。私は、今の裁判所の実情を踏まえますと、裁判官の選任方法をアメリカやイギリスのような法曹一元制度にする必要が高くなっているように思います。

阿部氏は、市民は、裁判はどんどん処理してほしいものではなく、裁判官にはちゃんと見てもらいたいと思っている、裁判官のなり手がないのはゆゆしき事態だという感想を述べられました。

 4 裁判官のなり手がない問題は、1960年代にもあり、臨時司法制度調査会が設けられ、1964年(昭和39年)に意見書が出ました。審議の際、日弁連は弁護士から裁判官を選任する法曹一元制度を提案しましたが、当時は弁護士が少なく、意見書では、時期尚早であるという結論になりました。しかし、平成の司法改革で弁護士は大幅に増えましたから、今は法曹一元制度の条件は整っています。
 経済学者の大内兵衛氏は、裁判官のなり手がない問題を解消するためには、裁判官の給与などの待遇を良くする必要があるという意見を述べています(大内兵衛・我妻栄「日本の裁判制度」)。しかし、今の最高裁は、定員を充足していないという国会の批判をかわすために裁判官の定員数を減らすだけで、待遇を良くしたり、転勤制度を見直したりして裁判官の増員を図ることは考えていないようにみえます。お隣の韓国は既に法曹一元制度を導入しました。日本も、本気で法曹一元制度に取り組む必要があると思います。(弁護士 松森 彬)