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訴訟当事者の権利についてシンポジウムが開かれました

 2025年2月5日に大阪弁護士会館で、民事訴訟についてのシンポジウムが開かれました。テーマは、「『法的審問請求権』という権利をご存じですか。-訴訟当事者の権利を踏まえて、充実した訴訟活動をめざそう-」でした。主催は、大阪弁護士会で、日本弁護士連合会と近畿弁護士会連合会の共催を得ました。私は、大阪弁護士会で司法制度の問題を調査検討する委員会の委員をしており、シンポジウムの企画と準備に関わりました。

 法的審問請求権とは、当事者は裁判所に事実関係や法的問題について意見を述べたり、証拠調べを求めたりすることができるという大変重要な権利です。法的審問請求権をテーマにしたシンポジウムは初めてだと思います。また、弁護士会で「訴訟当事者の権利宣言」を提案したのも初めてだと思います。当日は、全国の弁護士、学者、マスコミ論説委員、市民らの出席があり、会場に約50人、オンラインで約110人のご参加がありました。

 このシンポジウムを開くことになったのは、最近の民事訴訟がさまざまな問題を抱えているからです。シンポジウムでは、アンケート調査で判明した約60件の問題事例が報告されました。「証人調べを申請しても裁判官が採用しない」、あるいは「裁判官が事実関係の審理をしようとせずに和解を強要する」などです。背景には、裁判官が外国に比べて少なく、一人当たりの手持事件が多いという構造的な問題があります。それに加えて、最近の民事訴訟には、訴訟当事者の意思や権利を大事にしないという民事訴訟のあり方に関する基本的な問題があります。
 私は、昨年春に、法律時報に「訴訟当事者の権利―丁寧で親切な訴訟を実現するために」という論説を書きました。大阪弁護士会の司法制度を扱う委員会に問題を提起しましたところ、近畿弁護士会連合会の委員会と連携して調査と検討が行われ、今回のシンポジウムの開催に至りました。

 シンポジウムは、第一部で2つの基調報告がされました。最初に、アンケート結果を踏まえて最近の民事訴訟の問題点が報告されました。続いて、その問題を解決するための方策として、「訴訟当事者の権利宣言」の案が提案されました。訴訟当事者の権利として、憲法32条の裁判を受ける権利と、その中に含まれている法的審問請求権など8つの権利が説明されました。裁判官と弁護士は、訴訟当事者の権利を確認し、実践する必要があります。その実践の一つの試みとして、裁判官に証拠調べを求める「証拠申出書」と「証拠申出補充意見書」のモデル案が提示されました。

 第2部はパネルディスカッションで、「訴訟当事者の権利は守られているか、どうすれば訴訟当事者の権利を実現できるか」をテーマに討論がされました。
 委員会の弁護士は、最近の最高裁長官の挨拶を紹介して、審理や手続の効率化が強調される一方で、公正、適正、充実などのことばが無いこと、訴訟代理人の弁護士は手続が省略されて当事者に不利にならないように注意する必要があることなどを指摘しました。
 訴訟を経験した市民は、裁判所はすぐに和解を勧める、解決金の金額が低い、和解の際の口外禁止条項の問題などについて意見を述べました。医療では患者の権利がいわれて良くなったと思うので、是非訴訟当事者の権利宣言をしてほしいと話しました。
 元裁判官からは、多くの裁判官は真摯に仕事をしているが、裁判所では、とにかく早く事件処理することが最優先とされているとの話がありました。
 法学者からは、法的審問請求権について、ドイツでは憲法にあたる基本法に規定があること、ドイツでは当事者が申し出た証拠は原則として取り調べる必要があるとされていること、日本でも憲法32条の裁判を受ける権利に法的審問請求権が含まれていると言えること、したがって重要な証拠が調べられなかったときは最高裁への上告が認められるべきであることなどの説明がありました。

 今回のシンポジウムには全国の弁護士、学者が多数参加されました。「訴訟当事者の権利」とその中核になる「法的審問請求権」が訴訟関係者の間で共通の認識となり、民事訴訟で確立することを期待したいと思います。(弁護士 松森 彬)