1 大阪弁護士会の調査
大阪弁護士会(裁判官情報連絡協議会)は、毎年、大阪の裁判所の裁判官の仕事ぶりについて会員の弁護士に投稿を求め、その集計結果を発表しています。個々の裁判官の氏名は公表せずに、5段階の評価とその理由を公表するものです。裁判官の自己研鑽の参考にしていただくことを目的にして、2014年に始まり、今回で9回目になります。大阪弁護士会の月刊誌(2025年7月号11頁)に結果が掲載されましたので、要点をお知らせします。
なお、2025年2月1日からは、大阪弁護士会の会員と対象の裁判官は、2通以上の投稿が寄せられた裁判官について評価項目ごとの点数を閲覧できる制度が始まりました。既に閲覧に来られた弁護士、裁判官もあり、今後、活用が望まれます。
2 今回の集計結果
2024年度(2024年4月から2025年3月まで)の集計結果は次のとおりです。大阪高裁、大阪地裁、大阪家裁の民事事件・家事事件を担当する裁判官は201人です。今回は弁護士から合計140通の意見が寄せられました。また、大阪高裁、大阪地裁の刑事事件を担当する裁判官は76人です。今回は合計31通の意見が寄せられました。このブログの2022年12月6日の記事「評価が高い裁判官と評価が低い裁判官(弁護士会の情報収集と分析)」に2021年度分の結果を、また、2023年8月10日の記事「裁判官の仕事ぶり」に2022年度の結果を書いていますので、そちらもご参照ください。
3 民事事件・家事事件の裁判官について
情報が1通だけであった裁判官は除き、2通以上の情報があった合計33人の裁判官(大阪高裁7人、大阪地裁24人、大阪家裁2人)について、①記録の把握、②争点整理、③証拠調べ、④和解、⑤話し方・態度、⑥判決、⑦総合評価の7項目の平均点を出しています。
5段階評価で平均点が4点以上の高い評価があった裁判官が、今回は12人であり、平均点が1点台と2点台の低い評価の裁判官が8人でした。弁護士が意見を出すのは、問題があったと思われるときと、大変良かったと思うときが多いと思います。
毎回の集計結果の傾向ですが、高い評価の裁判官は、記録の把握、争点整理、証拠調べ、和解、話し方・態度、判決のいずれの項目も点数が高く、逆に、評価の低かった裁判官は、記録の把握、証拠調べ、和解、判決という裁判の一番大事な部分の点がいずれも低いという結果でした。
なお、刑事事件を担当する裁判官については、情報が少なかったので、民事事件の裁判官のような分析はせず、個別意見を抜粋して紹介するにとどめています。
4 裁判官に求められるもの
重要な点は、そこで指摘されている「評価の具体的な理由」です。評価は、良かったという積極評価と悪かったという消極評価の双方がありますが、約170の意見が寄せられました。分析を担当した弁護士は、「裁判官に対する評価に、これほどの差があるのかと改めて驚かされる。」と書いています。
担当裁判官について「良かった」という積極評価をした理由で多かったのは、「双方の主張を良く理解し、不明な点や裁判官の考え等を示して十分な協議がされた」、「毎回、争点の整理と次回予定をまとめたメモを回すなど、熱心であった」、「丁寧に当事者の主張に耳を傾けた」、「和解協議で理由を説明して的確な和解案を勧めた」などです。
他方、「悪かった」という消極評価の理由ですが、「裁判官が双方の書面をよく読んでいない」という意見が今回も多数ありました。大阪弁護士会(司法問題対策委員会)が2024年12月に約60件の問題事例の情報提供を受けたときも、「記録を読んでいない」という意見がかなりありました。裁判官の職責の基本のはずであり、この種の意見がかなりあるのはショックでした。他には、「威圧的な雰囲気であった」、「意見を言うと、強行的な態度になった」など裁判官の態度、姿勢を問題にした意見もありました。また、「和解を押し付けられた」、「判決の事実認定に十分な理由がない」、「控訴審で具体的な主張立証をしたのに判決は原判決記載のとおりというだけ」など、和解と判決についての消極評価もありました。
分析を担当した前記協議会は、「まとめ」に、次のように書いています。「裁判官が、記録を精査して、当事者の主張に虚心に耳を傾け、十分にコミュニケーションをとって、当事者の納得が得られるように、充実した審理を心掛け、公平な判断をするという当然すべきことがなされておれば、その裁判官に対しては、どちらの当事者からも平均以上の評価がされていると考えられる」。私も同感です。
そして、「これに対し、記録を十分に検討していないため事案の把握が不十分、当事者の意見を聴かず、自己の判断に固執する、コミュニケーションを十分にとらないため、裁判官の考えが当事者に伝わらない、安易に結論を出そうとする、適正な解決への熱意が感じられないといったような裁判官に対しての評価は低くなっている。特に、個別の評価理由には、記録の検討が不十分であることや、判決の理由付けに説得力がないことを指摘する投稿が少なくなかった。」とまとめています。
近畿弁護士会連合会は、2025年11月28日に「訴訟当事者の権利宣言」を採択して、訴訟当事者の権利を尊重した丁寧な審理が行われるべきであることを宣言しました。残念ながら、現状は訴訟当事者の権利の尊重が実務に浸透・定着していないと思います。
上記の分析の「まとめ」は、これまで訴訟当事者や代理人弁護士に対して行われた各種調査の結果と基本的には同じ内容です。訴訟における裁判官のあり方を示すものとして、異論がない、スタンダードな内容ではないでしょうか。裁判官のあり方は、訴訟実務の経験がない研究者には教えることができない内容です。裁判官評価で示された意見と、この「まとめ」は、裁判所や弁護士会での法律実務家の研修や、法科大学院、司法研修所での教育の際の貴重な教材になると思います。
(2025年12月19日 弁護士 松森 彬)