1 アマゾンは「プライム」の問題について3800億円を支払うことで和解
アメリカの連邦取引委員会(FTC)は、ネット通販大手のアマゾンが消費者を欺いて有料会員サービス「プライム」に不当に誘導したとして、アマゾンを訴えていました。2025年9月25日、連邦取引委員会は、アマゾンが25億ドル(日本円で約3800億円)を支払うことで和解が成立したと発表しました(9月26日の朝日新聞デジタルニュース等)。
アマゾンは、「当日無料配送を手に入れよう」という宣伝文句で、無料の体験をさせ、新規会員を獲得していました。しかし、無料体験をすると最終的には有料サービスのプライムに入会し、月額料金が発生することを明示していませんでした。プライムに入会すると、早い配送や送料が無料になるなどのサービスが受けられますが、月額料金の支払いが必要になります。また、アマゾンは、消費者がプライムの契約を解約しようとしても複数の画面を経ないと解約ができない作りにしていました。連邦取引委員会は、入退会の誘導の手法が不当だとして、2023年6月に裁判を起こしました。なお、米国の連邦取引委員会は、日本の公正取引委員会のモデルになった委員会です。
アマゾンが和解で支払う25億ドルのうち、15億ドルは、意図せず登録したり、解約できなかったりした推定3500万人の消費者への返金にあてられます。残りの10億ドルは規則違反による罰金です。アマゾンが支払う25億ドルは、連邦取引委員会の規則違反としては過去最大ということです。
また、和解では、アマゾンは加入時に消費者によくわかるように画面上でプライム加入を拒否できる「明確で目立つボタン」を作ることや、解約をより簡単にできるようにすることの合意もされたそうです。
2 アメリカの司法のすごいところ
私も、アマゾンを利用し始めたころ、知らないうちにプライムに入会したことになっていて、料金が発生し、納得のいかない思いをしました。当時、その話を友人の弁護士にすると、友人も同じ経験をしたと言っていました。よくわからない形で有料サービスにさせていたわけです。
この裁判は、企業が不正な取引をすると、連邦取引委員会が消費者に代わって裁判までできるというアメリカの法律を利用したものですが、ここまでのことができるアメリカの司法制度はすごいと思います。日本の裁判では、不正をした側が痛みを感じるほどの結果を引き出すことは、まずできません。
裁判は9月23日にワシントン州シアトルの連邦地方裁判所で口頭弁論が始まったばかりでしたが、このあと審理をして判決で違法行為が認定されますと、アマゾンの幹部が個人責任を問われるリスクがあり、それを回避したかったため、アマゾンは和解をしたとみられています。
記事には書かれていませんでしたが、おそらく2023年の提訴からこれまでは、証拠開示手続が行われていたのだと思います。証拠開示手続は日本の裁判にはない手続で、相手方にある証拠や資料を入手することができます。アマゾンにとって不利な事実がかなり明らかになったのだと考えられます。
連邦取引委員会の委員長は「解約がなかなかできなくて、うんざりしている数百万の米国人にとって、記録的かつ画期的な勝利だ」と述べたそうです。
3 日本でも改善が求められる
記事は、欧州連合(EU)や日本でも、アマゾンの「解約の不透明性」は問題視されており、今回の和解は各国でアマゾンに改善を求める先例となりうると報じています。
インターネットを利用しますと、他のサイトでも似たような経験をすることがあります。契約時に誰にでもわかる明解な説明や、簡単な解約方法が必要です。日本でも、公正取引委員会や司法が積極的にその役割を果たすことが求められていると思います。(2025年9月27日 弁護士松森 彬)