裁判員制度が始まって、この5月21日に1年を迎えました。裁判所が2009年12月までに裁判員を経験した781人にアンケートをした結果が公表されました。「非常によい経験」、「よい経験」と答えた人が、97%でした。裁判員に選ばれる前は、「やりたくなかった」、「あまりやりたくなかった」という人が56%でしたが、裁判の後では、貴重な経験と受け止めていることがわかります。私が、アメリカの陪審制度の調査に行ったとき、アメリカでも、経験前と経験後で意見が変わると聞いていましたが、やはり日本でも同じ結果になったという思いがします。それにしても、97%という数字には驚きます。
また、最高裁は、一般の国民約2000人に対して2010年1月に実施したアンケート結果も公表しました。「裁判員制度を知っているか」という問いに、98%の人が「知っている」と答えたことにも驚きます。そして、「裁判員制度ができたことで、裁判や司法への興味、関心が増した」という人が43%もありました。
各新聞社も独自の調査をしています。朝日新聞社は、経験した140人にアンケートをしたところ、担当した被告の「その後」を知りたいと言う人が6割を超え、88人ありました。実際に、裁判員裁判では、刑の執行を猶予する際に、保護観察官や保護司が生活を見守る「保護観察」をつけるケースが、従前の職業裁判官による裁判よりも増えています。従前の裁判は、ベルトコンベアの流れ作業のようで、一人一人の被告の今後にそれほど関心を払っていなかったかもしれません。国民が参加する裁判は、予想していなかったところで新鮮さを与え、従前の裁判のアカを落としてくれていると思います。
最高裁の発表によりますと、3月末までの起訴は1662人で、444人に判決が言い渡されました。死刑判決は無く、無罪判決もありません。難しい裁判は、これから正念場を迎えることになると思います。適切な量刑の問題、裁判員の守秘義務の問題、取り調べの録音、録画の実現など、課題もたくさんあります。
今回の最高裁のアンケートで、「各法律家の説明がわかりやすかったか」という問いに対して、裁判官の説明については90%がわかりやすかったと答え、また検察官の説明については80%がわかりやすかったと答えました。しかし、弁護人の説明については、わかりやすかったという回答は50%しかありませんでした。これは、弁論技術だけでなく、刑事事件における弁護が持つ根本的な難しさが関係していると思われます。しかし、これまでなら、弁護士の説明が下手でも、職業裁判官は、言いたいことを汲みとってくれたかもわかりませんが、裁判員裁判では、弁護人は説得力ある弁論でなければ、かえって反発をかうおそれもあります。弁護士会で、体験を交換し、研究を重ね、わかりやすく説得力ある弁護を追求することが求められています。(弁護士松森 彬)