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裁判員裁判の現状と課題についてシンポジウム

裁判員裁判が2009年(平成21年)5月に始まって、今年で6年になります。昨年のことになりますが、6月に「裁判員制度の現状と課題」というシンポジウムがアジア犯罪学会の大会で開かれ、その議事録が法律雑誌に掲載され、読みました(甲南法学55巻1・2号)。裁判員を経験した3人の市民、裁判官、弁護士、学者、ジャーナリストらが話をされていて、興味深い内容でした。

西村健弁護士は、「弁護士会は市民の司法への参加が望ましいと考え、導入するように運動してきたが、現状は基本的には弁護士会が想定したとおりになっていると思う」と報告しています。課題はあるが、失敗でなかったという評価で、ホッとします。

私が、議論で気になったのは、「疑わしきは被告人に有利に」などの刑事裁判の基本原則がどこまで裁判員に説明されているかという点です。裁判員経験者は、説明があったように思うが覚えていないということでした。パネリストの裁判官によると、「裁判の冒頭では簡単にしか説明しない。審理の後、評議をするときに説明する」ということです。私がアメリカの陪審制度を見に行ったとき感じたのは、裁判官の陪審員に対する説明が非常に重視されているという点でした。陪審制度では、陪審員だけで有罪無罪の判断をしますが、裁判員制度では裁判員と裁判官が一緒に判断しますので、詳しい説明は最後でよいということかもしれません。しかし、下手をすると、裁判員経験者がよく覚えていないというように、説明が不十分になるかもしれません。水谷規男阪大教授は、「主張と証拠が違うことなど、日常生活の判断とは異なる判断が求められるので冒頭から裁判のルールの説明は要ると思う」と話をされています。

また、裁判員経験者は「量刑がわからずに悩んだ」と言っておられました。制度設計のときから、この点はかなり議論がありました。裁判の経験がない市民が懲役何年が妥当かと聞かれても分からないということです。裁判員制度では、かなり詳しい量刑データが用意され、それを基にして相談しているようです。アメリカなどの陪審制では、量刑は裁判官が決めますので、陪審員に、その悩みはありません。

なお、今年2月に、最高裁は、地裁の裁判員裁判で死刑の判決が出たあと高裁が無期懲役に変更した2件の事件について、高裁の判断を支持する結論を出しました。最高裁は、死刑は究極の刑罰であり、慎重さと公平性が要求され、先例を逸脱した判決は許されないとしました。死刑は世界では廃止している国が多く、最高裁の判決は、死刑に限ったものであり、裁判員制度の意義を否定したものではないと思います。

シンポジウムでは、その他に、「守秘義務の範囲がわかりにくい」とか、「弁護人の法廷活動がわかりにくいことがある」とか、「市民の辞退率が高くなっている」などの課題が指摘されました。今後、改善に向けての取り組みが必要であると思います(弁護士 松森 彬)。