先月になりますが、逮捕された人から弁護人を頼まれた事件で、2日間の逮捕のあと検察官は10日間の勾留を請求しましたが、裁判官は勾留を認めませんでした。被疑者は罪となる事実を認めており、証拠もあり、逃亡のおそれも全く無い人です。その日のうちに釈放され、その後は自宅から警察での取り調べに通っています。証拠を隠すおそれがあるとか逃亡のおそれがあるという場合は別ですが、そうでない限り、「在宅捜査」が原則であってよいと改めて思います。本人と家族の心身の負担が全然違います。
一般に、逮捕された被疑者は48時間(2日間)以内に検察官に送致されます。捜査機関が拘束を続けたいときは、検察官は送致を受けてから24時間以内に、かつ、逮捕から72時間(3日間)以内に裁判所に勾留請求をしなければなりません。
これまでは、逮捕の後、ほとんど(9割以上)が10日間の勾留を請求され、裁判所はほぼすべて勾留を認めていました。約10年前(平成16年)に裁判官が勾留を却下したのは、1%よりさらに少ない0.3%でした。
10年程前から、少しずつですが裁判所が勾留を認めない例が増えてきました。平成26年の却下率は2.2%で、まだまだ少ないのですが、それでも10年前の7倍になっています。また、起訴されたあと判決より前に釈放する「保釈」も認められる率が増えています。平成26年は勾留された被告人のうち4分の1の保釈が認められました。
しかも、かつては地裁や簡裁で勾留請求が却下されると、検察官は準抗告(不服申立)を行い、上の裁判所が逆転の判断をして勾留が認められることもよくありましたが、今回、検察官は準抗告をしませんでした。最高裁判所が平成26年、27年に立て続けに身体拘束を安易に認めない決定を出しており、最高裁が考え方を明確に示してきていることも影響しているように思います。
日本の警察の取調べは身体を拘束して行うのが普通とされ、裁判所もそれを追認してきました。そこで、「人質司法」だと言われてきました。私が前にこのブログにも書いた志布志事件では、その後無罪判決が出た県議会議員は395日拘束され、その奥さんは273日拘束されました。否認すると保釈が認められず、うそでも自白をすると、また保釈が認められないという、まさに「人質司法」が行われました。
司法改革で、「裁判員裁判」が導入され、刑事裁判に市民が参加して、裁判や捜査の実情が人々の目の前にさらされることになりました。また、「被疑者弁護」の制度が導入され、逮捕段階から弁護士が付くようになりました。このような動きが影響しているのだと思いますが、裁判官は本当に勾留が必要かを慎重に検討するようになってきたのかもしれません。明るい兆しだと思います。弁護士と弁護士会も、弁護人活動の充実に努める必要があると思います。(弁護士 松森 彬)