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高等裁判所の控訴審についてのシンポジウムで報告をしました

高等裁判所の審理について、去る6月21日に大阪弁護士会館で弁護士会主催のシンポジウム「民事控訴審のあり方ー事例を踏まえて」が開かれ、私はパネリストの一人として報告をしました。これは、最近の高等裁判所の審理が以前と随分変わってきており、その実情と問題点を明らかにして、どうすればよいかを考えるという目的で開かれたものです。

 

最初に、問題があると思われる17の事例が発表され、そのうち代表的なものが報告されました。2件ご紹介します。29億円を自治体の開発公社に貸し付けた会社が、返してもらえないので裁判を起こし、地方裁判所は29億円の返済を被告に命じました。しかし、高等裁判所は、1回裁判期日を開いただけで結審し、判決では、地方裁判所のときには大きな争点となっていなかった論点で判断をして、請求を全く認めないという逆転判決を出したケースです。高等裁判所の裁判官が新たな争点について着目するのであれば、当事者にその点を言って、双方に主張や立証の機会を与えるべきではないかと考えられます。

 

また、養子縁組が有効になされたかどうかが争いになった事件で、地方裁判所は、母親の認知症が重く、養子縁組は無効であるという判決でした。高等裁判所は、追加して証拠を出したいという当事者の希望を認めず、1回で結審して、家族が書いた陳述書などで、母親の意思能力に問題はなく、養子縁組は有効であると、逆転の判決を出しました。これも、無理に一回で結審するのではなく、十分な反論、反証の機会を与えるべきではないかと思われます。

 

事例報告のあと、松本博之大阪市大名誉教授が、民事訴訟法では、高等裁判所の審理は地方裁判所の審理の続きと定めており、単に地方裁判所の判決をチェックするだけでは不十分であるという講演をされました。

 

そのあと、元裁判長をされていた井垣敏生弁護士、松本名誉教授、今川忠弁護士、正木みどり弁護士、私でパネルディスカッションを行いました。

 

高等裁判所は、最近は78%の事件が1回で結審しています。しかし、以前は3回、4回と開かれ、3割の事件で人証調べが行われていました。控訴される裁判の件数が増えるのに合わせて、裁判官はしんどくなったのか、どんどん人証の調べをしなくなり、最近では、人証調べが行われるのは僅かに1%です。結論が逆転するような事件でも、ほとんどの事件で裁判官は何も言わず、法廷の裁判手続は5分位で終わることもあります。黙って逆転するわけですから、当事者や弁護士からはブーイングの声が大きくなっています。

 

パネリストの井垣元裁判長は、年間60人ほどの人証調べをされたようで、忙しくても調べをしようと思えばできると言われます。

 

私は、シンポジウムでは、「今の高等裁判所は1回結審オンパレードの状態にあるが、多数の問題事例が発生しており、見直しが必要だ」と発言しました。そして、「国民が裁判に求めているのは、審理の公正と充実である。1回で終わることを原則とせず、第1回期日は裁判官と当事者間で十分なやりとりをする機会にすべきである」と意見を述べました。これは、今回プロジェクトチームを組んだ弁護士の一致した意見です。「裁判官と国民との意思疎通」言い換えると「コミュニケーション」を欠いているのが今の高等裁判所の裁判だと思います。裁判制度は神さまのご託宣ではないのですから、黙って結論を言い渡すのは駄目だと思います。裁判官の思い違いがないか、考え違いがないかを考えて当事者と代理人弁護士の意見を十分に聞くことが求められます。

 

この日のシンポジウムには、大阪だけでなく近畿の弁護士が合計120人出席されました。また、シンポジウムの議論は法律雑誌に掲載される予定です。裁判は3回できると思っておられる国民が多いと思いますが、最高裁判所は法律的な問題の審理をするだけですので、高等裁判所が、事実はどうであったかを審理する最後の裁判所です。高等裁判所の重要さに鑑みて、もっと充実した審理をする必要があります。(弁護士 松森 彬)

(2019年8月15日追記)

このシンポジウムの様子は、判例時報2342号139頁(上)、2345号132頁(中)、2347号130頁(下)に掲載されています。その後、近畿弁護士会連合会は、理事会で「民事控訴審の審理に関する意見書」を決議し、2018年8月3日に全国の高等裁判所、最高裁などに送りました(意見書は公表されており、近畿弁護士会連合会のホームページの意見書の欄で見ていただくことができます)。そして、日弁連の「自由と正義」(2019年4月号)に、意見書の解説などをした「民事控訴審の審理の充実を求めるー事後審的運営は見直されるべきー近弁連は意見書を発表」の記事が掲載されました。

以上