遺族年金は、「その人によって生計を維持していた遺族」が受けとることができます。婚姻届を出していない内縁の妻(あるいは夫)でも、事実上婚姻状態と同じであった人は、遺族年金を受けとることができます(ここでは内縁の妻について説明しますが、内縁の夫の場合も同じです)。
問題になるのは、内縁の妻と戸籍上の妻の両方があるときです。どちらが年金を受けとることができるかをめぐって、裁判になることもあります。法律(厚生年金保険法)の解釈がどうなっているかですが、婚姻制度を法的に保護する必要があることと、年金は遺族の生活を保護するためのものであることの両方の趣旨を考えて、「戸籍上の婚姻関係が形骸化していて、事実上離婚状態にあったときは、内縁の妻が年金を受けとることができる」と解されています。婚姻関係が形骸化しているかは、別居期間、音信・訪問の有無、経済的な依存関係の有無、婚姻関係を修復する努力の有無などを見ることになります。
婚姻関係が破綻しているかどうかの判断基準は、行政と裁判所で少し異なります。いずれも国の機関であるのに基準が異なるのは国民としては困ったことですが、現実にそうですので、その点をご説明します。
行政(厚生労働省、日本年金機構)は、別居期間は「おおむね10年程度以上」とする基準(局長通知)を設け、それより短い期間では、婚姻関係はまだ破綻していないと判断することが多いようです。しかし、裁判所は、別居期間が6年10か月のケースでも婚姻関係は破綻していたとして内縁の妻が年金を受けとることができると判断しました(大阪地裁平成27年10月2日)。民法の改正案として、別居が5年以上続いているときは離婚を認めてよいのではないかという提案がありますが、裁判では、別居が10年より短くても婚姻関係は破綻していると認めてよいと考えられています。
また、生活費などが戸籍上の妻に支払われていたときは、行政は婚姻関係は破綻していないと判断することが多いのですが、裁判所は、お金の支払いがあっても、婚姻関係の実体が失われているときは内縁の妻を配偶者と認めています(大阪高裁平成26年11月27日判決等)。
行政は、判断にバラツキが出ないように基準(厚生労働省局長通知)を設けていて、たとえば別居期間はおおむね10年程度以上としており、行政の職員は、その基準に従って仕事をします。しかし、局長通知は法律ではなく、法的効力はありません。裁判では、法律の趣旨に基づいて個別のケースごとに判断しますので、たとえば10年より短い別居期間でも内縁の妻が配偶者と認められることがあるわけです。
私は、内縁の妻の年金の問題については、最近のいくつもの判例で、法律の解釈が確立していると思いますので、行政は、今の局長通知を早急に判例に則した内容に改正すべきであると思います。行政の基準を改正しませんと、裁判に訴えた国民は年金を受けとることができますが、裁判をしない国民は年金を受けとることができないという不公平な結果になるからです。(弁護士 松森彬)