今日は、弁護士会の研修で、昨年まで最高裁判事をされていた木内道祥(きうちみちよし)弁護士が「最高裁判事として考えたこと(上告棄却・上告不受理事件を題材にして)」と題して講演されましたので、聞いてきました。
木内さんは、私も弁護士会の委員会などでよく存じ上げている大阪の弁護士で、人柄も能力も立派な方です。今日は、最初に、「裁判は、細い管を通して社会を見る仕事だと思った」との感想を述べられました。
そして、最高裁には年間約9000件の事件が挙がってくるが、最高裁に上告する理由は法律で制限されているので、最高裁が実質的に判断する事件は限られており、多くは簡単な理由(いわゆる三行半)で棄却又は不受理になるとの説明でした。
木内さんは、判例集などに掲載された有名な事件(家族法、消費者法、倒産法などの事件やNHK受信料の事件)で反対意見や個別意見を書いておられますが、今日は、上告を棄却したり、上告を受理しなかった事件のなかから、裁判記録を読んで地裁と高裁の裁判について感じたことをお話しになりました。
印象的だったお話しを書きますと、地裁の裁判には、法律を知らずに間違った判決や、非常識な事実認定がされた判決や、裁判官のセンスが悪く、解決になっていない判決などがあったということです。そのような地裁の判決は控訴されて多くは高裁で是正されるのですが、高裁の裁判も問題だと思うことがあるようです。
高裁の裁判の1番の問題は、地裁と違う争点で逆転の判決を出す不意打ちの裁判であるとのお話しでした。具体例として、最高裁が平成29年1月31日に、「節税のために養子縁組をする場合であっても、直ちに縁組が無効であるとはいえない」とする判決を出した事件をあげられました。1審の地裁は節税のための養子縁組も有効であると判断しましたが、控訴審の高裁は無効としました。最高裁は、有効であると判断し、法令違反として高裁判決を破棄しました。木内さんは、高裁では判断を逆転させた論点を意識した審理がされておらず、不意打ちではないかと思ったとのことです。同じように感じた事件は他にもあったとのことです。事実認定をするのは高裁までで、最高裁は事実認定はできないので、高裁までの事実審理がしっかりできていないときは困ったと言っておられました。
近畿弁護士会連合会は、今年8月3日に高裁の審理の充実を求める意見書を全国の高裁に送りましたが、木内さんも最高裁で裁判記録を読みながら、同じような感想を持たれたようです。木内さんは、刑事裁判は裁判員制度の導入で争点を明確にした裁判をするようになっているが、民事裁判は後れているのではないかと指摘されました。最近1回で結審することが増えている高裁の裁判ですが、もっと当事者(国民、代理人弁護士)とのコミュニケーション、意思疎通をはかり、不意打ちというような印象を与えない裁判が望まれると思います。(弁護士 松森 彬)