西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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刑事事件の弁護士費用が出る保険ができました

  今年(2019年)1月、新たに、自動車を運転中に事故を起こして刑事事件になるときに、弁護士の相談費用や裁判費用が出る保険ができました。これは、損害保険ジャパンが販売を始めたもので、自動車保険の特約として付けることになります。

 一般に、自動車保険に入っていれば、被害者に払う損害賠償金と裁判を起こされて弁護士に頼むときの裁判費用も保険から出ます。また、弁護士費用特約を付けていますと、自身が被害者となり、ケガをしたり車両が傷んだりして損害賠償請求を弁護士に委任する費用も保険から出ます。しかし、刑事事件になり捜査や裁判を受けるときに弁護を依頼する費用が出る保険は、これまでありませんでした。刑事裁判の弁護士費用は、以前大阪弁護士会の司法制度の委員会で実情の調査をしたことがありますが、平均的な事件で着手金が30万円程度、そして執行猶予が付くと報酬金が30万円程度でした。新たに発売された保険では、この刑事裁判費用も一定の基準のもとで保険でまかなえることになります。

今のところ、この保険を扱っているのは損害保険ジャパンだけですが、この弁護士費用保険の特約を付けておくと、弁護費用の全部又は一部が保険から支払ってもらえることになります。保険料は、年間3800円です(民事事件の弁護士費用も対象に入っています)。自動車事故だけでなく、日常生活で被害を受けた事故も含めて弁護費用が出る種類の特約もあり、その場合は年間6000円です。 

ヨーロッパでは、国民の多くが裁判費用の保険に入っています。昨年、日弁連の委員会(リーガル・アクセス・センター)の委員がスウェーデンの権利保護保険(ヨーロッパでは弁護士費用保険のことを権利保護保険といいます)の調査に行ってこられました。スウェーデンでは、96%の国民が権利保護保険に入っているそうです(日弁連の2019年1月号の新聞)。イギリスやドイツなどでも弁護士に頼んで権利を守ることができる権利保護保険に入っている人が多いのですが(10年程前の数字ですがイギリスでは約6割、ドイツでは約4割と聞いています)、スウェーデンの96%という加入率には驚かされます。スウェーデンは、従前は法律扶助制度により裁判費用をカバーしていましたが、1997年からは法律扶助に絞りをかけ、保険による支払に移行してきているようです。
 日本では、弁護士費用の保険は、一部の保険を除いてほとんどは自動車事故や日常生活の事故に限られていますが、ヨーロッパでは、不動産の問題や離婚の裁判でも弁護士費用が保険から出ます。そういう保険があれば、問題があって泣き寝入りをすることは格段に減ると思います。日本は医療の分野では国民皆保険が実現していますが、司法の分野は保険の整備が遅れています。今回、自動車事故の刑事裁判を対象とする保険ができたことは、少しですが一歩前進といえます。(弁護士 松森 彬)