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裁判員制度10年のシンポジウムが開かれました

裁判員裁判の制度ができて10年になりますので、大阪弁護士会は刑事弁護の委員会と司法改革の委員会が合同で「裁判員裁判の今までとこれから」についてシンポジウムを開きました。昨日の土曜日に弁護士会のホールで開かれ、市民と弁護士が約180人出席され、私も参加してきました。

裁判員の経験をされた3人の市民の方の話しが面白かったですね。弁護士などの法律の専門職は、裁判員にはなれませんので、評議がどのように行われているかは、裁判員経験者に聞くしかありません。この3人の方もそうですが、裁判員経験者に感想を聞いた調査では、非常によい経験をしたと答えた人が64%、よい経験をしたと答えた人が33%で、よい経験であったという人が圧倒的に多く、9割を超えています。また、裁判所での評議は、わかりやすかった、また、話しやすかったという声が多く、刑事事件担当の裁判官は、相当に努力をされているなと思います。十分評議ができたという声が78%になりますが、評議時間については、短かったという意見が相当な割合でありますので、裁判所が日程に合わせて評議を急がせているケースもあるのではないかと気になります。

パネリストの1人にハイヒール・リンゴさんがなられ、「裁判員裁判ができて、何がよくなったのか」などの鋭い質問をされ、議論が締まったと思います。その点について、四宮啓弁護士は、「国民が参加することで、納得のいく裁判になる」という話しをされました。そして、今回出席された裁判員経験者も、「暴行の態様がよくわからなかったが、みんなで議論して確認ができた」、「裁判長が被告人に説諭をした話しのなかに、評議のときの裁判員らの意見が含まれていた」、「人生経験や職業など違う人が集まって議論すると、それぞれ気になる点が異なることに気付いた」、「市民は刑務所での精神疾患の治療や、執行猶予中の保護観察の実情などが気になるが、裁判員への説明が十分でなかった。これまで被告人は同じ疑問や不安があっても分からなかったと思う」などと話されましたので、私は、被告人にとっての納得が以前よりは増す裁判になっているかなと思いました。

また、裁判員の方にとっても、被害者や加害者のこれまでやこれからを考えたり、あるいは出所後の大変さなどを知ったりして、得がたい経験になったということです。それが、アンケート調査で97%もの人が良い経験をしたと感じておられる理由だと思います。

しかし、裁判員候補者の通知がきても裁判員を辞退される人が多く、2018年は67%にものぼったようです。アメリカでも陪審員になるのは義務ですが、日本の裁判員も、一定の場合の辞退が認められていますが、法律上の義務とされています。国民主権のもとでの司法制度を維持していくために、裁判員候補者に選ばれたときは、病気や家族の介護などのやむを得ない辞退理由がない限り、引き受けていただきたいと思います。

辞退する人が多い点をどうするかについて、四宮弁護士は、マスコミへの要望として、「負担だという論調が多いが、裁判所に行く日数は一部の事件を除いて、ふつうは3~5日であること、また、人を裁くという言い方がされるが、裁くというのは不正確であり、検察の有罪の立証ができているかを判断するだけであることを伝えてほしい」と話されました。

また、四宮弁護士は、「裁判員の守秘義務が強調されすぎて、裁判員裁判の意義や裁判員の満足度などが世間に伝わっていない。守秘義務の対象は、①誰が何を言ったか、②評議での票数はどうであったか、③裁判で知った関係者のプライバシーの3点だけである。裁判が終わるときに、裁判官が裁判員に『秘密を守るのはこの3点だけである』ことを確認するのがよいのではないか」という話しもされました。具体的で良い提案だと思いました。裁判所も、最近は、裁判員経験者に対して、貴重な経験を周りの人に是非伝えてほしいというチラシを渡しておられます。そのチラシが当日も配布されましたが、「公開の法廷で見聞きしたことや、裁判に参加した感想は守秘義務の対象にはなりません」と明記されています。

シンポジウムでは、裁判員制度ができたことで裁判には変化が現れており、性犯罪の処罰が重くなった、傷害致死の処罰が重くなった、執行猶予で保護観察が付く率が増えたことなども報告されました。

私は司法改革のときに弁護士会の委員会で議論に参加しました。制度ができるように国会議員に要請に行ったこともあります。10年経った現在、辞退する人が多い問題など、課題もたくさんありますが、まずは、国民の司法参加の制度が定着してきたことを喜びたいと思います。

〔参考〕

私は、最近、今年7月に文庫本で出版されたジョン・グリシャム(アメリカの弁護士・作家)の「危険な弁護士」を読みました。陪審員候補者は約200人も裁判所に呼び出されることや、そのなかから何時間もかけて12人の陪審員を選ぶ過程や、審理にはたくさんの証人が法廷に呼ばれることや、弁護士、検察官、裁判官がたくさん議論をすることが描かれています。実際にアメリカの裁判を見に行ったときもそうでしたが、当事者と市民の納得のために手間をかけ、手続を大事にしていることを感じます。

(弁護士 松森 彬)