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「法定審理期間訴訟手続の問題点」についてシンポジウムが開催されました

1 近畿弁護士会連合会は、司法問題対策委員会が中心となり、近畿の6つの弁護士会の共催を得て、昨年(2022年)11月29日、「法定審理期間訴訟手続の問題点」と題するシンポジウムを開催しました。私はシンポジウムの準備委員の一員でしたので、シンポジウムの模様をお知らせします。なお、意見にわたる部分は私の個人的な意見です。

2 「法定審理期間訴訟手続」とは、審理期間を原則6か月に限定する訴訟手続です。裁判所が、民亊裁判のIT化のための民亊訴訟法の改正を検討する際に提案しましたが、この手続は民亊裁判のIT化と関係はありません。各地の弁護士会や消費者団体、労働団体などが反対し、国会でも野党が新設に反対しましたが、昨年5月民亊訴訟法の改正法が賛成多数で成立し、その際に規定が設けられました。

裁判所は、最初、審理期間を6か月とする「簡易な訴訟手続」を提案し、当事者の書面は3通だけ、証拠はその場で調べることができるものだけとしました。簡易な訴訟手続で多数の裁判を処理しますと、裁判官と裁判所の負担は軽減します。この提案は、日弁連などの反対で、書面と証拠の制限の規定は削られ、期間の制限だけになりましたが、基本は簡易な訴訟の新設です。そして、審理する期間が制限されますと、当事者の主張・立証は事実上制限され、真実の解明ができず、誤判を生むおそれがあります。そこで、審理期間を限定した訴訟手続は外国にありません。

3 シンポジウムは大阪弁護士会館に設けた会場で開催され、ズームでの参加もできました。そこで、全国の弁護士、学者、消費者団体、マスコミ、国会議員ら多数の参加がありました。最初に、調査検討にあたった委員から、手続ができた経過とこの手続の問題点について報告がありました。シンポジウムの次第と、当日、配布された「報告書」は、近畿弁護士連合会のホームページの「お知らせ欄」の2022年11月29日の記事に掲載されています。この「報告書」は、法定審理期間訴訟手続についての今、一番詳しい資料であり、実務及び研究に不可欠なものといえます。弁護士だけでなくどなたでもご覧いただくことができます。URLは次のとおりです。    http://www.kinbenren.jp/topic/2022/2022_1129-2.html

4 報告に続いて、大阪公立大学の法学部長兼大学院法学研究科長の鶴田滋教授が「法定審理期間訴訟手続の理論上の問題点」について講演されました。そのあと、3人の裁判官経験者に、この手続が行われた場合の裁判について意見を求めるインタービューが行われました。裁判官経験者からは、裁判官は多数の事件を抱えているので、この手続で早く事件処理をしたいと考えるかもしれない、また、当事者は途中で通常手続への移行を申し立てることができるとされているが、裁判官や相手方のことを考えると実際に申立はしにくいのではないか、などの意見が出ました。最後に出席者から意見と質問が出ました。終了後に参加者にお願いしたアンケートでは、この手続の問題とシンポジウムの意義について多数の感想をいただきました。

5 法定審理期間訴訟手続は、人々は裁判を求めることができるという基本的人権に関わる重大なリスクがあります。弁護士は、安易にこの手続を使うと、依頼者から不利益を受けたと不満が出たり、責任を問われたりする可能性もあります。民事裁判は、迅速化、効率化の掛け声の下で証人調べや現場検証が減っています。期間限定の裁判を制度上認めたことで、今後一丁上がりの裁判が増えるおそれがあります。法定審理期間訴訟手続は2026年5月までに施行されますが、既にこの手続を先取りするような裁判を始める裁判官が出てきました。今回のシンポジウムは、この期間限定裁判の問題の重大さを確認した大きな意義を持つものであったと思います。日本の民亊裁判を利用しやすく、迅速で充実したものにするためには、裁判にかかる費用について法律扶助と保険の制度の整備を進めること、そして遅れている裁判官の増員と証拠収集手続の整備によって進めることが必要です。(弁護士 松森 彬)