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司法について大阪と東京の弁護士が意見交換

大阪弁護士会と東京弁護士会の司法問題を扱う委員会は、2023年3月11日、大阪の弁護士会館で意見交換会を開きました。毎年開催している恒例の交流会で、私も委員として出席しました。

今年は、①「法律扶助と司法アクセスの拡充」、②「刑事事件の再審に関する法改正への取り組み」、③「弁護士任官の推進」の3つのテーマについて意見を交換しました。

1 法律扶助

日本は、法律扶助が外国に比べて遅れています。法律扶助の事業は、戦後、長く弁護士会が人とお金を出して事業を行ってきました。予算がないので、裁判が終わると返還を求めていました。その後、国が補助金を出すようになり、司法改革で、法務省の外格団体である日本司法支援センターができても、その点は変わりがありません。しかし、外国は、国が日本の数十倍の扶助予算を出し、返還を求めない給付制です。未だに返済を求めているのは、主要7か国(G7)の中で日本だけです。しかも、法律扶助の場合の弁護士費用が日本では安く設定されており、国民も弁護士も使いにくい制度になっています。

日弁連は、今年3月3日の臨時総会で、「民亊法律扶助における利用者負担の見直し、民事法律扶助の対象事件の拡大及び持続可能な制度のためにその担い手たる弁護士の報酬の適正化を求める決議」をして、法律扶助の改革に取り組むことを決意しました。

私は、かつて日弁連の司法改革実施対策会議(座長青木正芳弁護士)の副座長をしていましたが、同会議は2008年7月17日に「民亊法律扶助制度の抜本的な改革について(提言)」をまとめて日弁連会長に提出しました。内容は、①国の支出額を大幅に増額する、②対象者・対象事件を拡大する、③償還制は廃止し、原則給付制にして、一部負担金を課すなど、利用者の負担を軽減する、④低廉な弁護士報酬を是正する、の4点でした。今年の日弁連決議の内容とほぼ同じです。日本司法支援センターの問題にも踏み込んでいる点で、今も参考になると思います。それから15年経っており、取り組みが遅いと会議でも指摘しましたが、日弁連は本気で取り組む必要があると思います。

 2 えん罪の救済

去る3月13日、東京高裁は1968年に死刑判決を受けていた袴田被告について再審開始が妥当とする決定を出しました。検察庁は特別抗告を検討しているようです。弁護士会は、えん罪被害者の救済のために、刑事訴訟法の再審に関する規定を改正して、再審請求手続における証拠開示の制度化と再審開始決定に対する検察官による不服申立の禁止を求めています。その現状と課題について報告がありました。

3 裁判官制度

当事者が納得のいく裁判をするためには、高い質の裁判官を安定的に供給できる裁判官制度が必要です。その方法として、英米では、裁判官は豊富な経験と信頼がある弁護士のなかから選びます。これは法曹一元制度と呼ばれ、オランダ、ベルギーなどキャリアシステムの国も一部導入し、韓国も2013年から段階的な法曹一元の導入を進めています。日本では、平成の司法改革でも、法曹一元の採用は実現せず、弁護士からの任官を増やすことになりました。日弁連は、弁護士任官を法曹一元の実現につなげるものと位置づけ、2001年5月8日理事会で「法曹一元の実現に向けて弁護士任官を全会挙げて推進する決議」をし、同年12月最高裁と弁護士任官について協議をまとめました。

しかし、弁護士任官が始まった2004年度は8人が任官し、2012年ころまでは5人前後が任官しましたが、それ以降は一年に数名です。この19年間に合計69人が裁判官になり、私が知っている裁判官らは高い評価を得ています。ただ、日弁連は当初、年間30人あるいは50人程度の任官者を出せると想定していましたので、それとは大きく異なる結果になっています。

弁護士任官が増えない原因は、弁護士が準備する期間について裁判所の配慮が足りない点、裁判所が多様な人材を採ろうとしない点(希望しても採用されないことが少なくない)、転勤があることなどが指摘されています。そもそも現在、裁判官は、定員を充たさない欠員の状態になっており、欠員さえ充足しない最高裁の姿勢が問題ですが、司法修習生にとっても魅力ある職業でなくなっている可能性があります。裁判官経験者に聞きますと、裁判官が増えれば裁判はもっと早くできると言っていますが、最高裁は訴訟手続の簡易化や和解の勧奨で裁判を処理しようとしています。裁判官の数と質をどうするかは、国民が受ける裁判の質に直結する大きな問題です。

日弁連は今年6月3日に弁護士任官20年のシンポジウムを開きます。この間、私も弁護士会の弁護士任官の取り組みに参加しましたが、20年経っても計画実現の見通しが立たないことを直視して、方針の抜本的な見直しが必要であると思います。(弁護士 松森 彬)