1 裁判官の仕事ぶり
裁判官は、憲法(76条)で身分の独立が保障され、良心と法律にだけ従って裁判をすればよいとされています。多くの裁判官は誠実に仕事をしていますが、すべての裁判官がいつも適切で納得のいく仕事をしているとは言えないのが実情です。
最高裁は、司法改革の議論を踏まえて2004年から弁護士等の外部からの情報を受け付ける制度を設けていますが、これは裁判所の人事評価のためで、結果は公表されていません。そこで、大阪弁護士会は、2014年から大阪の裁判所の裁判官の仕事ぶりについて大阪の弁護士に評価情報の提供を求め、提供された情報を毎年1年分をまとめて分析しています。高い評価もありますが、低い評価もあります。丁寧で親切な裁判に対しては弁護士や当事者から相応の敬意が払われるべきですし、残念ながら問題があるとの指摘もありますので、自己研鑽の参考にしていただくことが望まれます。
2 今回の集計結果
2022年度(2022年4月から2023年3月まで)は、民亊・家事事件を担当する裁判官(大阪高裁、大阪地裁、大阪家裁の合計で191人)について、92人の弁護士から193通の意見が寄せられました。また、刑事事件を担当する裁判官(大阪高裁、大阪地裁の合計で77人)については、23人の弁護士から37通の意見が寄せられました。大阪弁護士会の月刊誌(2023年7月号)に結果が掲載されましたので、要点をお知らせします。
なお、このブログの2022年12月6日の記事「評価が高い裁判官と評価が低い裁判官(弁護士会の情報収集と分析)」に2021年度分の結果を書いていますので、ご参照ください。
3 民亊事件・家事事件の裁判官について
分析では、情報が1通だけであった裁判官は除き、2通以上の情報があった合計54人の裁判官(大阪高裁6人、大阪地裁44人、大阪家裁4人)について、①記録の把握、②争点整理、③証拠調べ、④和解、⑤話し方・態度、⑥判決、⑦総合評価の7項目の平均点を出しています。なお、どの裁判官のことであるかは分からない形で公表しています。
5段階評価で平均点が4点以上の高い評価があった裁判官が20人であり、平均点が1点台と2点台の低い評価の裁判官が17人でした。弁護士が意見を出すのは、問題があったと思われるときと、大変良かったと思うときが多いと思います。191人の裁判官のうち、1割位の人については複数の弁護士からかなり高い評価があり、1割位の人については厳しい評価があったことになります。
高い評価の裁判官は、争点整理、証拠調べ、和解、話し方・態度、判決のいずれの項目も点数が高く、評価の低かった裁判官は、記録の把握、証拠調べ、和解、判決という裁判の一番大事な部分の点が低いという結果でした。具体的には、コミュニケーションをしないので争点が深まらない、証拠調べで裁判官が誘導質問と誤導質問をした、理由なく和解を押し付けた、高圧的で尊大であった、判決が手抜きであったなどです。
なお、刑事事件を担当する裁判官については、情報が37通と少なかったので、民亊事件の裁判官のような分析はせず、個別意見を抜粋して紹介するにとどめています。具体的には、公判前整理、証拠調べ、訴訟指揮、判決の点について厳しい評価が寄せられました。
4 多くの人に実情を知ってもらおう
裁判をする個人や企業は裁判官を選ぶことができません。たまたま当たった裁判官が不熱心で横柄な人であったりしますと、正当な権利も実現しないおそれがあり、大変です。
大阪弁護士会が行っている裁判官の評価情報の収集と分析は、裁判官の実情を明らかにする点で貴重です。情報を提供する弁護士も、これを分析する委員の弁護士も手間がかかることですが、人々の裁判を受ける権利を実現するために、この制度を多くの市民や法律家に知ってもらい、今後も続けていくことが求められていると思います。(弁護士 松森 彬)