西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

  1. ホーム
  2. コラム
  3. 弁護士の職務
  4. 弁護士会が取り組むべき課題

弁護士会が取り組むべき課題

この数ヶ月、弁護士会が取り組むべき課題を考えてきました。司法が市民や企業にもっと身近で納得のいくものになるために、私は次の施策が必要であると考えます。

     弁護士会が取り組むべき課題

                  弁護士 松森 彬

第1 ---人権救済に役立つ司法の実現

わが国社会は、今、急激な社会的・経済的変化の中で、格差が拡大し、貧困化が進んでいます。「大阪地域司法計画2008」が明らかにしたように、多重債務者、労働者、消費者など多くの人々が容易に司法にアクセスできず、法の救済を受けることができていません。

弁護士会が、今、目指すべきことは、このような状況を改善し、もっと法と法律家がその役割を発揮し、それにより人々の基本的人権が守られ、さまざまな法的問題の適切な解決が図られる司法を実現することであると思います。

わが国の司法は、裁判員制度などの国民の司法参加や、被疑者国選弁護制度などを実現しましたが、他方で、合格者の急増が質の問題や就職難などを生じさせています。法律扶助の改革や、裁判官等の増員、民事裁判制度の改革などは遅れており、冤罪、誤判防止のための刑事司法の早急な改革も必要です。

大阪弁護士会と日弁連は、これらの課題に取り組む必要があります。

第2 弁護士会が取り組むべき課題(5つの施策)

私は、人権救済に役立つ司法を実現するため、次の5つの施策が必要であると考えます。

1 弁護士会の人権擁護活動を拡大、充実させる

① 人権擁護を職責とする弁護士の団体として、憲法と平和の問題や、貧困、労働、消費者、多重債務者、女性、子ども、高齢者・障がい者、外国人など、社会的弱者の人権問題について、市民団体との連携を中心にして取り組みを強化し、立法、行政に積極的に意見を発表し、制度の改善を進めることが必要です。国内人権機関の設置、個人通報制度の批准、死刑問題などについて、政党、議員と協議しつつ、市民とともに取り組むことが求められます。また、弁護士と弁護士会の人権擁護の使命を全うするために、弁護士自治を堅持することが必要です。

② 大阪弁護士会が設置した人権基金を活用し、人権擁護、人権侵害救済の活動を積極的に推進しなければなりません。市民とともに人権保障のための公益的事件の支援も課題です。

2 司法をもっと利用しやすくする弁護士会の活動を拡充強化する

① 法律相談、公設事務所の拡充と府下の法律事務所の展開の促進

行政には多数の労働相談が寄せられますが、弁護士や裁判が利用されるのは僅かです。権利を侵害されたすべての人が司法をもっと利用できるように、弁護士会の法律相談事業公設事務所の活動を拡充強化し、府下の法律事務所の開設を後押しし、弁護士についての対外広報を強化しなければなりません。

「大阪地域司法計画2008」は、労働相談などの無料化、専門化、弁護士情報の提供、法律事務所の府下への展開など、弁護士会の課題を多数提示しており、その実現が求められます。

② 「地域ごと・分野ごとのネットワーク」の構築

弁護士・弁護士会には、各分野の専門家や公的機関、NGO等とのつながりがあります。弁護士会が呼びかけて、地域ごと及び法分野ごとのネットワークを構築し、定期的な集まりなどを催し、司法の利用促進と機能強化について活動することを提案します。

地域ネットワークは、豊能、三島、北河内、中河内、南河内、堺市、泉州、大阪市などの単位で設け、弁護士会と地域の弁護士、自治体などで地域の司法の充実を目指すことが考えられます。将来は各地域の法律相談センターは、弁護士会と地域社会をつなぐ拠点とすることが考えられます。

また、人権課題については既に大阪府による人権相談機関ネットワークがありますが、他の法分野でもネットワークを設置し、司法利用が促進される活動を展開することが望まれます。

3 人権擁護に役立つ司法制度を実現する

① 裁判員裁判に対応し、本格的な被疑者国選弁護を担う

国民の司法への参加と被疑者国選弁護は弁護士会の悲願でした。弁護人の質と量に留意して対応体制を整えることが課題です。

裁判員裁判で国民と司法との関係は大きく変わることが期待できますが、取調の全面可視化が実現していないことや全面証拠開示でないなどの制度上の問題が残っています。刑事裁判の原則の徹底を求めるとともに、3年後の検証と制度改善に向けて準備をする必要があります。また、法教育の推進が裁判員制度を支えるためにも必要です。

② 民事司法の抜本的改革ー使いやすく、満足のいく民事裁判の実現

今回の司法改革で、民事司法の分野では目玉になる改革が行われず、整備が遅れています。次の改革が必要です。

第1は、民事法律扶助の抜本的な改革です。ヨーロッパの数十分の1という政府の支出額の大幅増額、扶助対象の拡大、償還制から給付制への移行、低廉な弁護士報酬の是正が急務です。早急に生活保護などの行政手続の本体事業化にも取り組むことが必要です。また、権利保護保険(弁護士費用保険)の拡大が求められます。

第2は、民事裁判制度の抜本的な改革です。私は「司法改革-市民のための司法をめざして」(共著)の「これからの民事裁判」に書きましたが、印紙代の軽減、証拠調べ方法の充実、低い賠償額の見直し、集団訴訟の導入が必要です。大阪に民事裁判改革の委員会を設置することが必要です。

第3は、裁判官・検察官の倍増弁護士任官の促進です。

これらの基盤整備がなければ、使いやすく満足のいく司法にはなりません。

③ 弁護士の業務基盤の拡充と、そのための立法を推進する

中小企業に対する法的サービスを促進し、企業内弁護士や行政内弁護士を増員し、行政と弁護士会との連携を進めることが重要です。企業において弁護士の監査を義務付ける制度等を立法するため日弁連の立法対策センターを強化することも課題です。

④ その他の課題

全面的な国選付添人制度の実現、行政訴訟制度の改革、労働や行政の実体法の改正が必要です。また、全国の弁護士の過疎、偏在の解消のために取り組むことも必要です。

4 増員計画を見直し、弁護士会の提言を実現する

① 合格者の急増は質の問題や就職難などの問題を生じさせています。2010年頃に合格者を3000人にするという増員計画の見直しが必要です。日弁連の平成21年3月の提言にあるように、現状程度を目安として抑制し、質の確保に配慮した慎重かつ厳格な合否判定を求めることが適切です。今後も、合格者数は法曹養成制度の整備の進捗やOJTの状況、就職状況、法律扶助などの制度的基盤の整備状況などを見極めて決めていくべきであると考えます。

法科大学院の定員を削減するとともに、教育のばらつきの是正、司法修習の整備等、法曹養成の改革に取り組むことが必要です

また、大阪で、来年度の新規登録弁護士の就職問題の支援策が予定されていますが、さらなる対策も検討課題です。

② 隣接関連職の問題については、今後の制度の在り方を検討するとともに、理由のない職域拡大の動きに的確な対応をする必要があります。

5 業務を中心に会員をサポートする

① 増員と多様化の状況にある会員のために、業務に役立つ十分な研修、広報、マニュアルの発行、ホームページの活用を行うことが求められています。

② 増えている若手会員をバックアップし、その意見を取り入れるための施策が必要です。登録5年未満の若手弁護士が議論し、弁護士会に提案し、さらに互いに助け合うことを目的とした新進会員活動委員会(仮称)の設置を提案します。また、弁護士会の会員ホームページ等を利用し、会員が相互に相談したり、情報交換ができる場を設置することも一つの方策だと考えます。

                                       以上