弁護士は法律事務所で顧客のために裁判や交渉などの仕事をしている人が多いのですが、最近は会社で仕事をしている人もいます。「企業内弁護士」(インハウスロイヤー)といいます。自治体等で仕事をしている任期付公務員の人と合わせて「組織内弁護士」と言ったりします。
企業内弁護士との協働を考えると題したシンポジウムが2018年3月1日に大阪弁護士会館であり、出席してきました。企業内弁護士は、司法改革で増えていまして、現在は2106人です。現在の日本の弁護士数は4万0069人ですから、20人に一人、率にして5%を占めるに至っています。日本組織内弁護士協会という団体もできています。
約2100人のうち、東京の弁護士会に約1700人が所属していて、8割を占めます。大阪は130人で、京都が50人、愛知県が40人などです。企業内弁護士が多い会社は、ヤフー(28人)、三井住友銀行(20人)、野村證券(20人)、三菱商事(20人)、丸紅(15人)などです。かつては外資系企業が多かったのですが、日本企業が増え、メーカーでも増員されています。
企業内弁護士が増えている原因は、企業側の事情としては、会社のコンプライアンス(法令遵守)の重視や経済のグローバル化で、会社が法務機能を強化しようとしていることがあるようです。供給する弁護士側の事情としては、司法試験合格者数が増員され、弁護士が増えたことが一番の理由です。
司法改革で法律家の増員をはかる議論をしたときは、法律実務の経験を積んだ弁護士が会社や役所に入って行くことで法的な思考や法的な処理が広まることを期待し、想定していたのですが、最近は、そのコースの人もおられますが、法科大学院を出てすぐに会社に入るという例が増えているようです。会社に勤めていた人が司法試験を受けて、その会社に戻られる例もあります。会社としては、法律知識のある優秀な人がほしいのであって、実際の裁判は専門の顧問弁護士に依頼するので、実務経験はなくてもよいということかもしれません。
組織内弁護士が多いのはアメリカで、ドイツなどは全体の1割程度だと思います。興味深いのは、フランスで、企業内弁護士を認めていません。それは、弁護士は一切の圧力や影響を受けることなく依頼者である個人や企業の権利を守る必要がありますが、企業内弁護士は業務の独立が保障されないとして、認めていないようです。国によっては、法律事務所で代理や弁護の仕事をするときは、弁護士会に会費を払い、また業務の独立が保障されるが、企業内弁護士の場合は、そのような権限や義務が無いとしています。
日本でも、弁護士の業務の独立を確保するために、弁護士に対する懲戒権は弁護士会に認められ、弁護士は国や都道府県の監督を受けていません。これは、弁護士自治といいまして、税理士や司法書士には無い制度です。この制度があるので、弁護士は役所などの圧力や嫌がらせを受ける心配をすることなく、個人と企業の権利を守るために申立や裁判をすることができるのです。
企業内弁護士が、勤務先の会社の要請と弁護士倫理の要請との板挟みになったという例はまだ無いと聞きましたが、今後は企業内弁護士の自由と独立という問題が出てくるかもしれません。企業内弁護士は本格的に始まってまだ10年余りです。企業のコンプライアンスの充実などの成果が期待されますが、制度の検証、検討も続けていく必要があるように思います(弁護士 松森 彬)