「行列のできる法律相談所」というテレビ番組があります。法律問題は、法的見解が結構分かれることがわかります。実際の裁判も同じで、どの裁判官が判断するかで結論が変わると思われる事件があります。刑事事件について国民が参加する裁判員制度が始まりましたが、民事裁判でも、国民の司法参加制度が要るのではないかと思うことがあります。少なくとも、今のキャリア裁判官制度(大学を出てすぐに裁判官になり、あとは裁判所の中だけで転勤したり部長に出世したりする)では駄目だと思うことがあります。常識に合った納得のいく解決ができる裁判官を、どうすればもっと増やせるか。
昨日の土曜日は、京都で、オランダとベルギーを視察してきた弁護士の調査団の報告会がありました。裁判官制度は、日本やドイツのように、大学を出てすぐに裁判官になるキャリア制と、アメリカやイギリスのように、弁護士や学者などを経験してから裁判官になる法曹一元制度に分かれます。オランダとベルギーは、以前は日本と同じキャリア制であったのですが、最近は、二つのコースの両方から裁判官を採用するミックスシステムで成果を挙げているようなので、全国の弁護士有志15人が見てこられました。
報告を聞いて、日本との違いを痛感した点が二つあります。一つ目は、オランダの裁判官の手持ちの裁判件数の少なさです。オランダでは一人30件程度ということです。他方、日本の裁判官は一人常時200件から300件の裁判を抱えています。この違いは、日本の裁判官は、人口比で、オランダの6分の1しかいないことが原因になっていると思います。日本でも、司法改革で一時は年間75人の裁判官の定員増が認められましたが、平成24年度は30人増にペースダウンしています。これでは日弁連が提唱している倍増の実現に70年以上もかかります。
二つ目は、他の先進国では、転勤が無いことです。日本の裁判官は原則3年ごとに転勤があります。単身赴任の方も多いようです。赴任地を公平にするという発想から生まれたようですが、管理の強化や差別にも使われ、支部や家裁ばかり廻らされている人もあったりします。弁護士から裁判官になり手が少ない理由の一つは、事務所を閉鎖するだけでなく、転勤しなければならないこともあります。
社会経験が全く無いキャリア制では良くないというのは、お隣の韓国でも言われていまして、日本よりも早いテンポで改革が進められようとしています。2011年6月、韓国国会の司法制度改革特別委員会は、弁護士、学者などの実務経験者から裁判官を選ぶ法曹一元制度の案をまとめ、現在、法制司法委員会で検討中とのことです。
日本でも弁護士から裁判官を送り出すことは法律上は可能で、私は近畿地区の選考委員長をしていますが、実際には大変なりにくい状況にあり、今のところ弁護士から裁判官になる人は全国で年間5人程度しかありません。韓国のように、制度自体を変える必要があるかもしれません。(弁護士 松森 彬)