民事裁判では、双方の主張が出尽くすと、関係者や当事者に証言をしていただきます。証人の場合は証人尋問、当事者の場合は当事者尋問と言い、総称して、「人証の証拠調べ」といいます。これは厳密な言い方で、簡単には、「証人調べ」という言い方がわかりやすいかもしれません。実際の裁判では、法的な解釈だけでなく事実がどうであったかについての主張が対立していて、どちらの証言が正しいかがしばしば問題になります。その証言は真実か、思い違いではないか、あるいは意図的なウソではないなどを裁判官に判断してもらう必要があり、証人調べは大変重要です。
証人調べは、双方の弁護士が質問して、証人がそれに答えるという方法で行います。弁護士の質問がわかりにくかったり、誘導があったりしますと、正確な証言にならず、裁判官に誤解を与えるおそれがあります。そこで、民事訴訟規則(115条)は、質問のルールを定めています。
まず、①証人を侮辱したり困惑させる質問はいっさい駄目です。また、②誘導質問、③重複する質問、④争点と関係がない質問、⑤意見を求める質問、⑥証人が直接経験していない事実についての質問は、正当な理由がない限り、してはならないと定めています。
証人尋問の手続や技術は、法律家の養成の段階で勉強します。しかし、実際には、若い弁護士だけでなくベテランの弁護士でも、質問の意味がわかりにくく証人が混乱するような質問をしたり、争点に関係がないことを執拗に聞いたりする人もあり、当事者や国民の裁判に対する信頼を失わせるのではないかと心配することもあります。また、意見を求める質問をする弁護士も少なくありません。しかし、証人尋問は、本来、どのような事実があったかを明らかにするためのものです。主観的な意見を聞くことは目的ではなく、意見を求めますと、往々にして議論になりますので、訴訟規則は、特別な理由が無い限り、してはならないとされています。このルールを忘れておられると思われる弁護士がしばしばおられます。
民事訴訟規則(115条3項)は、ルールに違反した不適切な質問が行われたときは、相手方弁護士は裁判官に対して質問の制限を求めることができると定めています。私は、この規定を使って、証人を混乱させるような質問が行われたときは、異議を申し立てるようにしています。仕事上、たくさんの裁判を傍聴したことがある人が、私の裁判を傍聴されたことがあります。その人は、「弁護士の質問の仕方に問題があると思うときでも、一般に相手方弁護士さんはあまり異議を言いませんね」という感想を述べておられました。
しかし、裁判官が正確な判断ができるように、規則に違反した質問が繰り返されるようなときは、意見を述べて是正を求めることが必要です。また、弁護士会の研修でも、証人尋問の手続や技術を取り上げ、質の向上を図っていくことが望まれると思います(弁護士 松森 彬)