西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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性急な裁判官にどう対応するか

知り合いの弁護士から相談を受けました。その弁護士は、受任した離婚訴訟で、「離婚の法的理由が無い」と主張していて、相手方が十分な反論もしていないのに、裁判官は、第2回の期日から、「離婚した場合の財産分けの主張を早くするように」と言うとのことで、「最近の裁判は、こんなにせっかちになっているのか」という相談でした。

私も、昨年、若い裁判官から「審理の遅延を防ぐために、離婚に異論があるときでも、離婚した場合の議論を早くしてもらうようにしている」と聞きました。

しかし、法律が認める離婚事由がないときや、有責配偶者といいまして、不貞や暴力を自分でしながら、離婚を求める場合は離婚が認められませんので、そういうケースで、離婚を前提とする主張をすることは矛盾です。論点について十分な議論をせずに、軽々に矛盾した主張をするのは避けるべきです。しかし、たくさんの件数をかかえている裁判官は毎月数十件廻ってくる事件を処理するために、どうしてもせっかちになります。

裁判官は裁判の進行係ですので、当事者はその意見を尊重する必要はありますが、当事者としては、裁判官がややもすると性急になるということも考えて、しっかり言い分を言うことも必要です。

私は、以前、会社の元従業員が「仕事中に自動車の故障でケガをした」として会社に金銭を求めてきた裁判を担当しました。架空の話しだと思われましたので、私は会社には責任はないと主張しましたが、裁判官は、「会社の責任があるかもしれないから、過失を認めたうえで、相手にも過失があるという過失相殺の主張も予備的にしたらどうか」と何度も言いました。それは、論点の整理を早く終えて、早く裁判を終わりたいからだと思われました。その裁判は、審理の結果、元従業員の主張のウソを明らかにすることができ、相手の請求は全部棄却されました。私が、会社に過失はないという主張を貫いたことが、裁判官が緊張感をもって事実を見ようとしたことにつながったと思います。

先週、私は、裁判官が手続を省略する新たな形を経験しました。それは、証拠の文書の原本を見ようとしないのです。証拠とする文書は、原本があるときは原本を提出しなければならないと民事訴訟規則に定められていますので、これまで原本を見ない裁判官を経験したことがありません。ところが、その裁判官は、見ようとしませんでした。

現場の検証をすることが極端に減りました。本人や関係者の証言を聞くことも減っています。裁判の当事者になったときは、弁護士とよく相談して、裁判官に、しっかりと公正な手続と十分な審議を求めることが必要です。(弁護士 松森彬)