先週土曜日は、日弁連主催の「司法シンポジウム」(第28回)があり、大阪弁護士会でもテレビ中継がありました。2年前の司法シンポジウムで、司法は国民的な基盤を持つことが重要であることが確認されましたが、今回は、その実践のための課題として、次の4つのテーマが取り上げられました。
1つは、裁判官制度の国民的基盤の1つである「弁護士任官制度」の現状と課題です。
英米では、裁判官はすべて弁護士経験者のなかから優れた人が選任されます。韓国も、最近、その制度(「法曹一元制度」)に変えました。日本は、司法試験に合格したあと、すぐに裁判官と弁護士、検事に分かれますが、裁判官の多様性を高めるため、司法改革で、弁護士からも多数の裁判官を選任する「弁護士任官制度」が決まりました。現在、裁判官の数は全部で3000人ですが、日弁連は毎年30人ずつ任官者を選ぶことを目標にしました。ただ、弁護士で裁判官になることを希望する人が少なく、最近は年間1人から3人という少なさです。広報活動なども行っているのですが、希望者が少ないうえ、裁判所が審査で受け入れない例も多く、「弁護士任官制度」の根本的な改革が求められます。シンポジウムでは、弁護士から裁判官になった人が多数出演するDVDが上映されました。弁護士経験が裁判官の仕事に役に立っているという話しが印象的でした。
2つは、司法改革でできた「裁判員制度」の現状と課題です。
この10年間に裁判員裁判で判決を受けた被告人の数は1万人を超えました。犯罪名は強盗致傷と殺人が多く、この2つで全体の半数になります。シンポジウムでは、裁判員経験者による交流会が全国に7つもあるとの報告がありました。裁判員制度については、経験してよかったと感想を述べる人が96%にもなりますが、裁判員候補者に選ばれても裁判所に行かない人が3人に1人にもなるようです。法律上は国民の義務ですが、勤務先の理解が得られないなどの理由から辞退を希望する人が少なくありません。裁判所によっては、呼出状に勤務先の協力を求める書面や裁判員経験者の感想文などを入れたりして、理解を求める努力をしているようです。裁判員を経験した人が周りに色々話すことができれば、裁判が国民に身近になると思いますが、今の守秘義務の範囲があいまいで、制度の啓蒙や広報の妨げになっていると思われます。裁判員制度は来年(2019年)5月に制度開始から10年を迎えます。日本の法律と司法は、明治時代に西洋から輸入したもので、国民の信頼を土台にしているとはいいがたいところがありましたが、そのイメージを変えていくために、裁判員制度は今後も大きな役割を果たすように思います。
他に、生徒、学生等に対する「法教育」の取り組みのテーマと、「市民と司法をつなぐ取り組み(マスメディアの役割など)」のテーマが取り上げられました(私は他の用事で参加できませんでした)。
日弁連は、1973年に大阪で第1回の司法シンポジウムを開きました。テーマは、裁判の遅延と裁判官の増員でした。そのときは私は弁護士になった2年目で、その会議は覚えていませんが、司法制度のあり方には関心がありましたので、その後、何度か実行委員にもなりました。弁護士会は、一貫して司法のあるべき姿と市民のための司法の実現について議論してきたと思います。今後も、その視点での活動が求められていると思います。(弁護士 松森 彬)