西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

  1. ホーム
  2. コラム
  3. 法律,裁判所
  4. 裁判所の所持品検査の問題(家裁でも始まりました)

裁判所の所持品検査の問題(家裁でも始まりました)

大阪家庭裁判所は、今年4月1日から、裁判所に来る人に対する金属探知機とX線装置による所持品検査を導入し、それに伴い出入口を1か所に制限しました。大阪地裁は昨年から導入しており、それに続くものです。大阪弁護士会の司法制度に関する委員会で議論がされ、私も参加しました。どういう問題であるかをご紹介いたします。

国民は裁判を利用する権利があり、裁判所に自由に出入りする必要があることや、裁判は公開が原則であり、誰でも裁判所に入れるようにする必要があること等の理由から、従前は裁判所で所持品を検査するようなことは行われていませんでした。最初に、オウム真理教事件の審理が行われた東京地裁で所持品検査が行われ、その後2013年に札幌高地裁、東京家裁・簡裁、2015年に福岡高地裁、2018年に大阪高地裁、仙台高地裁、千葉地家裁、横浜地裁、さいたま地家裁、名古屋高地裁、神戸地裁、広島高地裁で実施され、2019年4月から大阪家裁、京都地裁、高松高地裁などでも実施されています。朝日新聞の2019年4月19日夕刊で、各地で不満が出ていることが報道されました。

裁判所における所持品検査については、札幌、仙台、大阪、京都、香川など多数の弁護士会が、反対、あるいは実施の見送りや、慎重な検討を求める意見・要望を出しています。大阪弁護士会は、大阪高地裁に対しては2017年10月25日に慎重な検討を申し入れました。また大阪家裁に対しては、2019年3月14日付書面で「大阪家裁における所持品検査の実施は、人権侵害のおそれがあること、裁判を受ける権利や裁判の公開の原則を含めた裁判所のあり方に関する重大な問題であること、入庁方法等の変更は市民及び弁護士などに大きな影響を及ぼすこと、家庭裁判所特有の配慮が要請されることなどから、慎重な対応が必要であり、立法事実の有無、他の方策の有無、予算などを明らかにした上で、弁護士会、市民などとの意見交換を行うなどして、実施の可否についてさらに慎重な検討が行われるよう要請する」との意見を申し入れました。しかし、裁判所は4月1日から実施に踏み切りました。

国民の所持品は、憲法35条により、住居等と同様に令状なしには捜索や検査を受けることがないことが保障されています。憲法のこの規定を知っておられる人は多くないかもしれませんが、法の番人である裁判所は率先して遵守しなければなりません。最高裁昭和43年8月2日判決も「所持品検査は、被検査者の基本的人権に関する問題であって、その性質上、常に人権侵害のおそれを伴うものである」と述べています。裁判所は、仙台地裁で2017年に刑事被告人が傍聴席にいた警察官に刃物でケガをさせた事件があったことなどを実施の理由にしていますが、それ以外にどれだけどのような事件があったかを裁判所は明らかしていません。もちろん暴行等の事件はあってはならないことですが、裁判所の外では防げないわけで、ここまでのことを行うべきかは、もっと検討されるべきであると思われます。

各地の裁判所は、市役所や税務署や労基署などと同様に、市民が利用しやすく、開かれたところであることが望まれます。昨年、大分地裁に行ったときは、人員削減のせいか、玄関に守衛さんもおられないのですが、玄関と廊下で通りがかりの職員2人が「行き先はわかりますか。ご案内しましょうか」と声をかけてくれました。また、岡山地裁では、玄関を通った職員がにこやかに会釈をしてくれました。それと比べて、今の大阪の裁判所は、いかつい男性警備員が仁王立ちをして裁判の当事者らを待ち構えており、その光景は異様です。先日は、当事者の男性の靴の底の見えないところに金属が使われているらしく、靴まで脱がされて困っておられました。地域の住民のための裁判所は、人々があまり出入りしない中央省庁とは異なることを、最高裁は自覚する必要があると思います。

最高裁長官は2017年1月の裁判所時報の「新年のことば」で、ハンセン病を理由とする開廷場所の運用が違法であったことを認め、裁判所では人権に対する鋭敏な感覚を持って仕事をすることが求められると述べています。しかし、所持品検査問題については、到底鋭敏な人権感覚があるとは思えません。既に大阪地裁では、車いす利用者が、ゲートの幅が足りずに通り抜けられず、民間警備員から、身体に触れられたり、荷物を取り出されたりする事例がありました。車いす利用者らが大阪地裁に抗議と改善を申し入れ、大阪高地裁は、2019年1月、配慮を欠いた対応があったことを認めました。

所持品検査は、民間の警備会社に委託しており、大阪高地裁だけでも、年間1億2199万円という巨額な費用になっています。それだけの国費を支出して行うべき必要があることかについて、必要性、方法などを総合的に検討することが求められます。(弁護士 松森 彬)