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裁判官に求められものは何か

7月3日に大阪弁護士会館で、裁判官の評価制度についてシンポジウムが開かれました。近畿弁護士会連合会(裁判官選考検討委員会)の主催で、「あなたの評価情報が裁判所を変えるー裁判官に対する外部評価情報の重要性-」というテーマでした。裁判官は、憲法で身分が保障されていますが、怠慢であったり、独善であったりすると、国民が困ります。また、かつては裁判所が思想・信条などを理由に裁判官の新任・再任を拒否したり、不当な人事差別をしたりしたこともあり、司法改革のときに、いくつかの改革改良がされました。従前からの裁判所の所長などによる評価だけでなく、弁護士などによる外部からの評価を取り入れる制度が新しくできました。これは、所長らが評価をするときに反映されることになっていますが、どう使われているかが全く分かりません。

そこで、九州、大阪、名古屋、札幌、第一東京弁護士会、新潟などでは、弁護士会が独自の裁判官評価システムを設けています。近畿では、大阪弁護士会が2014年から実施しており、今年で5年目になります。集計結果は、毎年弁護士会の6月号の月報に報告されます。氏名は公表されませんが、評価の高い裁判官と評価の低い裁判官の両方がおられることがわかります。そこには、どのようなことがあって高い評価をしたか、また、どのような理由から低い評価をしたかが書かれていますので、裁判官にとって大変参考になる資料になっています。

今回のシンポジウムでは、菅原郁夫早稲田大学教授の講演が印象的でした。菅原教授は、司法改革のときに、裁判所の協力を得て、裁判経験者にアンケートを行い、当事者が裁判を経験してどういう印象を持ったかを調べ、その後も、数年おきに調査をされている学者です。裁判利用者調査によると、当事者が裁判制度を評価するときに一番重きを置いているのは、結論や時間や費用などではなく、納得のいく審理であったかという点と、また、裁判官の姿勢や態度であったということです。

アメリカでも、裁判所の信頼度についていくつかの調査が行われているようで、その結果もお話しされました。人々が裁判所を信頼するかどうかで大きな要素になったのは、判断が公正な手続を経てくだされたという感覚を持つことができるかどうかであるとのことでした。往往にして、日本でも、法律家は、結果(結論)がまちがっていなければよいのでは、という結果重視になるが、人々が重視するのは、手続の公正さだということです。

そして、菅原教授は、①裁判利用者調査、②アメリカの信頼度調査、③大阪での弁護士評価の3つには共通点があり、人々は、裁判制度の評価としては、結果だけでなく、手続的視点(審理の公正さ)、人間関係的視点(裁判官の態度など)を重視していると指摘されました。

今後、適切な裁判を行っている裁判官を励まし、問題のある裁判を行っている裁判官の自省や研鑽を促し、全体として裁判制度への信頼を高めるために、現在大阪弁護士会が行っている制度を継続し、発展させていただく必要があると思いました。課題は、弁護士も忙しく、毎年、評価情報を提供する人が多くないという点です。弁護士の自覚が待たれます。(弁護士 松森 彬)