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最高裁での判決の見直し(少なすぎないか)

最高裁で高裁の判決が取り消される率はどれくらいだと思われますか。最高裁への申立は多く、「上告申立」が年間2000件前後あり、「上告受理申立」が年間2千数百件ありますが、「上告申立」で高裁の判決が取り消される件数は、年間わずかに2件ないし5件程度です。「上告受理申立」は最高裁が受理して審理する件数自体が40件ないし50件しかなく、原判決が取り消されるのはそのうちの20件から30件程度です。

もともと、最高裁で見直される件数はそれほど多いものではなかったのですが、改めて司法統計年報で調べてみますと、やはりかつてに比べて減っていることがわかりました。

まず、50年前の1969年(昭和44年)に上告された裁判件数は1560件ですが、そのうち48件が破棄して高裁への差戻になり、差し戻さずに最高裁が自分で結論を出した自判が6件ありました。また、和解が12件ありました。翌1970年は、総数は1214件で、そのうち差戻が62件、自判が14件、和解が23件でした。和解は最高裁が上告理由にも一定の理由があると考え、和解を勧告したからであると思われます。私も、時期は忘れましたが、最高裁で和解の勧告があり、和解をしたことがあります。 このころは、和解になった件数も含めますと、約70件から約100件で見直しがされています。上告事件の総数が今の半分以下ですが、今の2倍から3倍の件数で見直しがされており、率にして、約4%から約8%の事件で見直しがされていました。

1984年(昭和59年)ころになると、見直される件数は約50件から約70件になり、少し減ります。1984年は、上告事件総数の1783件のうち、差戻(移送含む)が22件、自判が13件、和解が22件でした。翌1985年は、総数は1898件で、差戻が19件、自判が17件、和解が14件でした。1986年は、総数が1988件で、そのうち差戻が25件、自判が23件、和解が28件でした。原判決の見直しの率は、それ以前より少し減りますが、それでも上告の3%程度で見直しがされていたことがわかります。

それでは最近はどうでしょうか。わが国の民事訴訟法は、1996年に大幅に改正されましたが、その際に、最高裁への上告が制限されました。最高裁の裁判官が15人しかいないのに件数が多いためです。改正では、上告ができる理由を制限して、その代わりに、上告受理申立という制度を設けて、それで見直しが必要な事件は救済することにしました。ただ、その後、上告受理申立が受け付けられる件数は少なく、学者から、最高裁は法律の定める以上に制限しているのではないかという意見が出ています(松本博之著「民事上告審ハンドブック」)。また、民訴法改正以降、最高裁での和解件数は一桁にまで減りました。最近は年に1件かゼロで、和解はほぼ行われていない状況です。

2015年(平成27年)は、上告での破棄が5件、上告受理での破棄が29件、和解は1件でした。なお、上告と上告受理申立の合計件数は5756件ですが、一つの紛争で、上告と上告受理申立の両方をしていることもかなり多いので、紛争としての件数は、私の大雑把な推測ですが、3000件前後ではないかと思います。そして、2016年は、上告での破棄は5件、上告受理申立での破棄が35件、和解が1件でした。2017年は、上告での破棄はゼロ、上告受理申立での破棄が21件、和解はゼロでした。見直しがされる件数の総数は、全部で約20件から約40件にまで減っています。見直しがされるのは、紛争の全件数の1%くらいでしょうか。

最高裁が高裁判決の見直しをする率は、訴訟法改正の前に比べて、4分の1とか3分の1の程度に減っているように思います。地裁や高裁の判決がそれだけ適切なものになっているのであればよいのですが、そうであるという特段の理由は考えられませんので、最高裁の上告と上告理由の今の解釈や運用が適切であるのかどうか、検討が求められていると思います。(弁護士 松森 彬)