大阪弁護士会(司法改革検証・推進本部)は、大阪の司法の実情(紛争の件数、裁判件数、裁判官の人数など)を調べて「大阪地域司法データ2019」を発表しました。2008年に最初の大阪地域司法計画を発表し、2011年、2014年に発表しましたが、前回から5年経ちましたので、新たに調査が行われました。データ2019は、大阪弁護士会のホームページのサイト内検索で大阪地域司法データ2019と入力して検索することができます。私は今回の取り組みには参加していませんが、2008年の最初の計画を作成したときに座長をしましたので、この度のデータを読みました。詳しくはデータ本文をお読みいただきたいのですが、主な点と私の感想を書きました。
1 大阪地裁の民事事件
大阪地裁の民事裁判の件数は、約1万5000件(2017年)で、過去5年間、大きな変動はありません。その前はサラ金の過払金の返還請求の裁判が多数ありましたが、それが一段落しました。
交通事故の裁判は約1600件で、5年間ほぼ変わりません。大阪府下の2017年の交通事故の件数は約3万6000件です。事故件数は全国でも毎年減少しています。
労働関係の紛争は、裁判、労働審判、調停などの方法で申立てがされます。大阪地裁の労働審判は過去5年間、約300件でほぼ同じです。行政における労働事件の相談は多く、大阪労働局が受けた個別労働相談件数は年間約2万1000件あります。依然として労働問題は府民にとって大きな法的問題です。
破産は減っています。2017年は7600件です。10年前(2007年)は約1万4000件でしたから、半分になっています。
専門的な分野の紛争ですが、建築関係の裁判は、大阪地裁で年間約140件あります。また、医療紛争の裁判は年間約100件あります。5年間、ほぼ同じです。
夫婦間の暴力(DV)事件は、地裁に保護命令の申立てができますが、大阪では約300件の申立てがあります。全国的に増えています。
2 大阪地裁の刑事事件
大阪地裁の刑事事件は、年間約7000件です。5年間、ほぼ変わりません。
裁判員裁判は、2017年は全国で1081件、大阪で107件(うち大阪本庁90件、堺支部17件)でした。5年間、件数に大きな変化はありません。
3 大阪家裁の家事事件
家事事件(離婚、相続、成年後見など)は、裁判以外の手続の件数が多く、年間約5万件あります。離婚申立てを含む夫婦関係調整の調停事件は約3200件で、5年間ほぼ同じです。なお、成年後見の申立ては、全国で年間約3万5000件あり、高止まりです。
遺言の利用は増えています。公正証書遺言の作成は、2017年は全国で11万件(5年前は約9万6000件)あり、大阪府下では8400件(5年前は約7000件)でした。過去に作成された自筆証書遺言が本人の死亡により行われる検認の件数は、全国で約1万7000件、大阪で約1000件でした。この件数はあまり変わりませんが、信託銀行などの金融機関が遺言書を預かる件数が増えています。5年前は全国で約9万件でしたが、2017年は約12万件でした。
4 裁判官の人数
大阪地裁本庁の裁判官数は、民事事件担当が約120人、刑事事件担当が約50人です。大阪家裁本庁の裁判官数は、家事・少年合わせて22人(家事事件担当17人、少年事件担当5人)です。
弁護士会は、裁判が迅速で充実したものとなるように、古くから裁判官の大幅増員を求めてきましたが、司法改革のときに10年かかって約2300人が約3000人に増えたものの、その後、増員幅は小さくなっています。「大阪地域司法計画2008」及び「同2011」によりますと、2006年の大阪地裁本庁の民事事件担当が109人、刑事事件担当が47人、大阪家裁本庁の家事事件担当が12人、少年事件担当が8人でした。民事事件担当が約10人増えたように見えますが、大阪地裁のような大規模庁では、一人で裁判ができない研修中の未特例判事補が多く(2017年の大阪地裁では民事事件担当で25人、刑事事件担当で13人)、全体の約2割を占めていることもあり、裁判官は実質的には増えていないといえます。
5 裁判外紛争処理機関
裁判所以外にあっせんを行う機関は、行政の設けたものや、民間団体が設けたものなど多数あります。公益社団法人である「民間総合調停センター」(受付は弁護士会館内)は、年間約150件の申立てを受けています。約3割が合意に至っているそうです。
6 地域司法計画の策定へ
大阪地域司法データは、地域の法的紛争の実情や、裁判所、法律事務所などの実情の一端がわかります。医療の分野では、地域医療計画が作られています。司法の分野でも、これらのデータに基づいて、大阪における司法サービスを充実させる施策(地域司法計画)を作成することが望まれていると思います。(弁護士 松森 彬)