民事裁判の手続においてもインターネットの利用が検討されています。一昨日、大阪弁護士会で、海外調査の報告も含むシンポジウム「司法のあるべき姿とはー裁判IT化のゆくえと日本の司法」があり、出席しました。
最近は、税務署に出す確定申告や法務局に出す登記申請などの手続もインターネットでできるようになっていますが、裁判手続は、ファクシミリや電話会議などの使用にとどまっています。書類の提出をインターネットで行うだけでなく、裁判書類や証拠も電子化しますと、紙を使わなくなり、裁判所の記録の整理・保管も楽になります。海外でも、程度の差はありますが、インターネットの利用(IT化あるいは電子化といわれます)は進んでいるようで、大阪弁護士会は、アメリカのニューヨーク州、カリフォルニア州、スペイン、ポルトガル、韓国の実情調査を行い、その報告が行われました。
海外調査については、詳しい報告書も配布されましたが、報告者の一人は次の5点の感想を述べられました。①ITの利用は、効率化やペーパーレスには役立つ。②インターネットのシステムは借り物ではなく、国の費用でわが国の自前のものを作るべきである。③海外でも実施には一定の時間をかけており、日本でも、一定の期間をかけて、IT化に適切な事件から進めるのがよい。④弁護士が訴訟代理人に付かない本人訴訟では、紙の使用を認めるべきで、併存になるのは仕方がない。⑤証人調べなどは、証人が遠方の場合に限るのがよい(外国でも遠方に限るものが多い)ということでした。
印象的な報告がありました。アメリカで、弁護士が「議論は裁判官と双方弁護士が直接会ってするのがよい。弁護士は、勝とうと思ったら直接裁判官に会うべきではないか」と話したそうです。近畿弁護士会連合会で、高裁の民事控訴審の充実について検討し、提言しましたが、その際、コミュニケーションの重要性が確認されました。裁判は説得や質問が必要なことから、その特徴として直接の面談が大事になるのだと思います。このあたりは裁判官には分かりにくい点で、制度を作る際に弁護士がしっかり説明をする必要があります。
税金の申告や登記の申請は1回きりの手続で、何度も読み返すということがありませんが、裁判の書面は、内容が複雑で、正確な検討が必要です。そこで、海外でも、裁判官によっては印刷して読む人もあるようです。このあたりは、慣れもあると思いますが、画像と本で理解の度合いが違ったという調査を聞いたこともあります。インターネットの記録は管理が楽で、検索がしやすいなどの利点がありますが、一覧性や使い勝手の点でまだまだ改良が求められるように思います。
裁判のITの利用は、今年春から実験的な試みが始まり、法律改正の検討も始まります。インターネットを使えない本人訴訟でどうするか、裁判の公開原則や直接主義はどう守られるのか、証人調べを行うことが適切か、審理が形骸化しないか、など検討されるべき点はたくさんあります。数年かけて行われることですが注目していきたいと思います。(弁護士 松森彬)