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評価が高い裁判官と評価が低い裁判官(弁護士会の情報収集と分析)

弁護士から見て、高い評価がされている裁判官と低い評価がされている裁判官がおられます。大阪弁護士会は、2014年から大阪の裁判所の裁判官について評価情報を集めて毎年公表しています。この3年間は新型コロナ感染症の影響で中断していましたが、2021年12月から2022年3月まで情報の提供を求め、その結果を大阪弁護士会の「月刊大阪弁護士会」の2022年9月号(21頁から30頁)に発表しました。前回の2018年度は342通の情報提供がありましたが、今回は、弁護士会のメールの故障などで投稿の周知や依頼を十分にできなかったことから、98通(民亊84通、刑事14通でした(2018年度の結果は、このブログの2018年6月30日の記事で紹介しています)。

裁判官に、この評価制度について話したことがありますが、勝訴した側が高い評価をし、敗訴した側が低い評価をするのではないかという意見でした。しかし、菅原郁夫早稲田大学教授によりますと、民事裁判利用者に対する調査やアメリカでの調査から、当事者の評価は単に勝った負けただけで行っているのではなく、手続的観点(公正な審理)と人間関係的な視点(裁判官の態度など)が大きく影響していることがわかっています(このブログの2019年7月5日の記事にそのことを書いています)。また、熱心でないなど問題がある人は裁判官だけでなく、どこの分野にもいるとの意見もありますが、裁判官の仕事は国民の権利と義務に直結するものだけに、見過ごすことのできない問題であると思います。

裁判官は、外部から圧力を受けて判決がゆがむことがないように裁判官の独立が保障されています。個々の訴訟の進め方も、それぞれの裁判官に任されています。そこで、いやいや仕事をしても、あるいは横着な仕事ぶりであっても、上司から注意を受けるとか顧客が付かなくて収入が減るということがありません。しかし、裁判官が不熱心であったり、不公正であったりしますと、国民、当事者は困りますので、2004年から裁判所は裁判官についての情報を受け付けています。ただ、裁判所の制度では寄せられた情報は公開されませんので、大阪弁護士会など全国のいくつかの弁護士会は独自の情報収集とその公表を行っています。大阪の場合、記録の把握、証拠調べ、和解、判決など7つの項目について5段階の評価を行い、その結果を公表しています。裁判官は、これを参考に研鑽を積んでほしいとのねらいです。なお、氏名は公表していません。

私が興味を持ったのは、次の点です。2通以上の情報提供があった民事部の裁判官で、5段階の評価で総合評価が4点以上(大変良い、良い)の裁判官が10人でした。他方、総合評価が1点台と2点台(大変悪い、悪い)の裁判官が5人でした。これまでの調査でも、良い、または大変良いという評価の裁判官が一定数おられます。逆に、悪い、または大変悪いという裁判官が、それよりは少ないですが一定数おられます。今回の情報提供でも、高い評価がされている裁判官も多数おられますが、悪い・大変悪いという評価の裁判官もおられるようです。

高い評価がされた理由は、「記録をよく読んで検討している」、「両当事者の主張や進行についての意見に公平に耳を傾ける」、「判決の認定が的確であった」などです。低い評価になった理由は、「両当事者の話に耳を傾けない」、「態度が威圧的である」、「証人の採用や尋問時間を制限する」、「強引に和解をさせようとする」などです。なかでも和解を押しつける裁判官についての意見が多く出ています。今の裁判の問題として和解の押しつけがあることは、大阪弁護士会が2012年に行った民事裁判についての弁護士調査でも明らかになっています(自由と正義2013年8月号45頁)。

2022年春に民事裁判のIT化のために民事訴訟法の改正が行われましたが、その審議の際に、裁判所は、裁判のIT化と関係がない「審理期間を限定した訴訟手続」と「裁判所がいつでも和解の決定が出せるという制度(和解に代わる決定)」を提案しました。ともに国民から反対の意見が出ました。前者は反対を押し切って制度化されましたが、後者は、法制審の内部でも反対が多く、制度化されませんでした。今の訴訟でも裁判官は和解の案を出すことがありますが、これは法的効力はなく、提案を受けるかどうかは任意です。しかし、和解に代わる決定は、裁判所が和解内容を決めて決定として出せるというものです。和解や和解に代わる決定の場合は、裁判官は判決のように理由を書く必要がありませんので、大変楽です。そこで、昔から裁判官は和解を押し付けがちであるという問題が指摘されていました。和解に代わる決定の新設は見送られましたが、最近、争点整理を原則6か月で終えて調停手続きに付し、民亊調停法17条の決定を出して訴訟を終わらせるという裁判官が現れました。審理はそこそこにして理由を書かない決定で裁判を終わらせようとする傾向がみられますが、訴訟制度の在り方や訴訟法の改正の議論は裁判の現実を踏まえて行われるべきです。今でも和解の押しつけの問題が多数生じていますので、さらに和解の強要につながる制度は避けられるべきであると考えられます。(弁護士 松森 彬)