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憲法学者は集団的自衛権を認める法案は違憲であるとの見解

戦争は最大の人権侵害だと言われます。確かに、数日前の新聞でも、改めてそう感じました。広島の原爆慰霊塔には約7万人の遺骨が納められていること、ほとんどが身元がわからないこと、氏名がわかっているのに引き取り手がない遺骨が今も815柱あって積極的に身寄りを探すことにしたことが報じられていました。

私は、前の戦争が終わった翌年に、軍隊から帰ってきた父と母の間に生まれました。私の祖父も日露戦争の戦場でいつ死ぬかという思いをしたようです。祖父、父と異なり、私の世代は戦争に行かずにきました。日本は、戦後の憲法で戦争をしない国にすると決めました。憲法9条で武力を持たないと定めましたが、政府は、自衛だけはできるとして、自衛隊を設けました。日本が攻撃を受けたときにのみ武力行使ができるとして、専守防衛が日本の方針であるとしてきました。他の国が戦争をするときに支援するという集団的自衛権は、日本の憲法は禁じているというのがこれまでの日本の政府の見解でした。

ところが、昨年7月、安倍内閣は、憲法の解釈を変更して、集団的自衛権の行使もできるとして、密接な関係にある国、たとえばアメリカがどこかの国と戦争をするときに一定の要件のもとに支援して実力行使ができるようにすると閣議決定をしました(2014年7月5日の私のブログ記事「戦争をしない国であるために」〔右欄のバックナンバーの文字をクリックして検索して下さい〕)。

今年の国会に安全保障法案が提出され、最近の報道では、7月中に衆議院で可決され、9月まで延長された今国会で成立する可能性があると報じています。

私は、憲法学者がこの法案は憲法に違反すると言っていることが重要だと思います。6月4日の衆議院の憲法調査会で、与党推薦の学者を含め3人の憲法学者全員が集団的自衛権の行使を認める安全保障法案は憲法違反であるとの見解を示しました。政府・与党にも驚きの声が出たと言います。

昨日(7月11日)の朝日新聞は、主要な判例解説書である「憲法判例百選」を執筆した憲法学者209人に意見を聞いたところ、122人(実名85人、匿名37人)が回答し、「憲法違反にあたる」が104人、「可能性がある」が15人、「憲法違反にあたらない」が2人、無回答が1人であったと報じました。

また、東京新聞(7月9日)は、全国の大学で憲法を教える教授ら328人を対象にアンケートを行い、回答した204人(回答率62%)のうち、法案を憲法違反とした学者が184人で90%に上り、合憲とする学者は3%しかなく、憲法学者の圧倒的多数が違憲と考えている現状が鮮明になったと報じています。

法律を専門の仕事とする弁護士も、憲法違反の疑いがある法案の行方には大きな関心を持っています。大阪弁護士会は、6月5日に、法案に反対するとの意見書を出しました。また、日本弁護士連合会は、6月18日に反対する意見書を出しました。

全国の地方議会からも、400を超える反対する又は慎重な扱いを求める意見書が国に寄せられているそうです。

憲法は、国のあり方の基本を定めるものです。国民の権利・自由を守るために国がしてはならないこと、すべきことを定めています。憲法は、最高法規であり、すべての法律の上位にあり、憲法に違反する法律は無効となります。法律家から見ますと、日本の政治家は法や憲法を尊重していないように見えます。

日本は戦争をしない国として、世界の人々から敬意と信愛を持ってもらえたように思います。戦争をしている国を支援して武力を使えば、テロを受け、直接の戦争になる危険が大です。日本はたくさんの人が戦争の悲劇を受けたことから戦争をしないと憲法で決めました。国会は、これだけ憲法の専門家が憲法違反になると言っている法律を作ってはいけないと思います。(弁護士 松森 彬)