西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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トラックの火災事故で製造物責任が認められました―大阪高裁で全面勝訴判決ー

1 トラックの火災事故

今年(2021年)4月、大阪高裁で、トラックの火災事故についてメーカーに製造物責任を認める判決をもらうことができました。毎日新聞で報道されましたが、トラックの車両火災について責任が認められた初めての裁判であると思いますので、ご紹介します。

運送会社の大型トラックが、深夜、高速道路を走行していましたところ、突然、エンジンから出火し、トラックと積荷が全焼しました。トラックのメーカーは責任を認めず、運送会社が点検整備をしていなかった可能性があると主張しました。技術士に鑑定を依頼しましたところ、技術士は欠陥の可能性があるという意見でした。そこで運送会社は、製造物責任法による損害の賠償を求めて提訴しました。

大阪地裁は、メーカーが十分な説明をしなかったことと、裁判所が部品についての取扱説明書の読み方をまちがった(あってはならない誤判です)ことから、運送会社が点検整備をしていたとする証明がないとして、運送会社の請求を棄却する判決を出しました。ただ、大阪地裁も、最近の裁判例の考え方である「通常の使い方をしており、必要な点検整備をしていたにも関わらず、製品事故が起きたときは、欠陥があることを推定する」という判断枠組は認めました。

運送会社は大阪高裁に控訴し、地裁判決が誤認をした点を明らかにしました。その結果、大阪高裁は、運送会社が必要な点検整備をしていたことを認め、欠陥が推定され、メーカーからそれを覆す立証が無いとして、メーカーに損害賠償を命じる逆転の判決を出しました。

メーカーは最高裁に上告受理申立をしましたが、上告受理申立として認められる理由が無いので、棄却されると思います。なお、上告受理申立が認められて上告審としての審理が行われるのは、全体の数%です。

2 製造物責任法の欠陥の認定の仕方

製造物責任法の「欠陥」(第2条)についての判断枠組(判断の仕方)は、この10年あまりに言渡しがあった合計15件の判決(うち4件は高裁の判決です)で、ほぼ確立したと言ってよいと思います(今回の大阪地裁と大阪高裁の判決も含めています)。

なお、これは、明確に判断枠組を提示した裁判例という意味です。その前から同じような判断をしている裁判例はたくさんあります。たとえば、東京地裁平成11年8月31日判決は、冷凍庫が発火した事件で、通常使用中に被害が発生したときは、通常有すべき安全性を欠くと認定しました。また、最高裁が判決文で判断枠組を明示したものはありませんが、ヘリコプターのエンジンが破損した事件で、上記の裁判例の判断枠組を示した東京高裁の平成25年2月13日の判決に対する上告と上告受理申立について、最高裁は平成26年10月29日に上告棄却と上告不受理の決定を出しています。基本的には下級審が示している判断枠組を支持していると言ってよいと思います。裁判例は、このブログの2020年11月8日の記事「製造物責任法の『欠陥』をめぐる裁判の判断枠組(ほぼ確立)」に紹介しましたので、それをご覧ください。

3 大阪高裁の判決

大阪高裁の判決が、判断枠組として判示した部分は次のとおりです。「本件車両の納車から本件事故の発生までの間、通常予想される形態で本件車両を使用しており、また、その間の本件車両の点検整備にも、本件事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証した場合には、本件車両に欠陥があったものと推認され、それ以上に、控訴人らにおいて本件エンジンの欠陥の部位やその態様等を特定した上で、事故が発生するに至った科学的機序まで主張立証する必要はないものと解するのが、製造物責任法の趣旨・目的に沿うものというべきである。」と判示しました。そして、判決は、通常予想される形態での使用であったか、あるいは必要な点検整備が行われていたかを、詳細に認定しました。また、メーカーの主張についても、丁寧に判断し、メーカーの説は、客観的な状況に整合せず、あるいは客観的な状況の説明が困難な点が認められ、欠陥の推定を覆すだけの立証がないと判断しました。

大阪高裁で担当した裁判官らは、何度も期日を開き、毎回、裁判官の抱いた疑問を双方に示すという審理をされました。また、私たちは、会社の整備士や技術士らの協力を得て、丁寧に証拠を用意し、何度も数十頁に及ぶ準備書面を出しました。それらがすべて意味を持つものであったことを、判決を読んで改めて確認しました。このことはいずれの裁判にも当てはまることで、裁判所、弁護士の仕事の仕方として参考にしてもらえれば、と思います。

4 エンジンについて製造物責任が認められた意義

この判決は、トラックのエンジンの火災事故で初めて製造物責任を認めた判決ではないかと思います。乗用車のフェラーリの車両火災についての判決があり、トレーラーのタイヤが脱輪して歩行者が死亡した事件がありますが、トラックの車両火災について責任を認めた初めての判決だと思います。今後は、メーカーは、よく調べずに使用者の点検整備の不備が原因だと決めつけるようなことは許されず、事故について誠実に調査し、対応する必要があり、それを怠ると、場合によっては責任が認められる可能性があることが示されたと思います。(弁護士 松森 彬、同 高江俊名、同 柳本千恵