西天満総合法律事務所NISITENMA SŌGŌ LAW OFFICE

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トラック火災事故について製造物責任が認められました(最高裁で勝訴)

1 トラック火災事故と訴訟

最高裁から2022年4月19日付けの決定が事務所に届きました。決定は、相手方であるいすゞ自動車の上告受理申立を退けたもので、私たちの事務所が担当していました訴訟が当方の勝訴で確定しました。

この訴訟は、大阪の運送会社のトラックが2012年7月7日に山陽道を走行中にエンジンから出火し、車両と積荷が全焼したため、運送会社と車両共済金を支払った共済組合がメーカーのいすゞ自動車に対して製造物責任法に基づき損害賠償請求をしていたものでした。

大阪地裁の2019年3月28日の判決は、裁判所の事実誤認があり、製造物責任を認めませんでしたが、大阪高裁の2021年4月28日の判決は、当方の主張のとおり、エンジンの欠陥を認めました(このブログの2021年5月30日の記事で紹介しました)。

本件最高裁決定は、トラックのエンジンについて製造物責任を認めた初めての決定になります。トラックの火災事故は多く、社会的にも大きな影響を与える判決になりました。

2 製造物責任

製品や機械等が壊れたり、出火したりして使用者が被害を受けることがあります。使用者が原因を明らかにすることは難しいので、製造物責任法(1995年)ができています。その判断の仕方が、この10年余りの間に13件ほどの裁判例によって確立したといってよいと思います。

今回のトラック火災事故の大阪高裁判決は、「本件車両の納車から本件事故の発生までの間、通常予想される形態で本件車両を使用しており、また、その間の本件車両の点検整備にも、本件事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証した場合には、本件車両に欠陥があったものと推認され、それ以上に、控訴人らにおいて本件エンジンの欠陥の部位やその態様等を特定した上で、事故が発生するに至った科学的機序まで主張立証する必要はないものと解するのが、製造物責任法の趣旨・目的に沿うものというべきである。」とする判断を示しました。

これは最近の裁判例の判断の仕方と同じです。最高裁は、ヘリコプターのエンジンが破損した事件で、同じ判断枠組を示した東京高裁の平成25年2月13日の判決について上告受理申立がされたとき、平成26年10月29日に上告不受理の決定を出していますので、基本的にはこれらの判断枠組を支持しているものと言えます。

3 トラックのエンジンについて欠陥が認められた意義

本件裁判で、トラックメーカーは、自動車は使用者がオイルメンテナンスなどの点検・整備が必要であり、一般的な判断の仕方を自動車に当てはめるべきでないと主張しました。

この点について、大阪高裁判決は、自動車の場合も、「点検整備にも、本件事故の原因となる程度のオイルの不足・劣化が生じるような不備がなかったことを主張・立証」すれば、他の製品事故と同じように判断してよいとしました。そして、最高裁の決定も高裁の判断でよいとしましたので、メーカーが最後の拠り所にしようとした自動車の特別扱いの主張は否定されたことになります。

4 裁判を終えて

火災事故から10年、提訴から7年(地裁4年、高裁2年、最高裁1年)かかりました。時間がかかったのは、当時は判断枠組みが確立していなかったことが一番の理由です。整備不良というメーカーの主張が通り、欠陥が認められなかった東京地裁平成26年3月27日のような裁判もありました。

そのため、本件でもエンジン出火に至る専門的な検討が必要になり、技術士に調査・検討を依頼するとともに、私たち弁護士も部品のメーカーに尋ねに行き、図書館にも通いました。

また、時間がかかったのは、裁判所が証拠の収集の点で積極的でなかったことや、メーカーが持っている資料・情報の提供をしようとしなかったこと、立証のためとして長い準備期間を求めたことなどもあります。アメリカのような証拠開示(ディスカバリー)が必要であると思いました。

アメリカでは、自動車の欠陥についての裁判が多数あるようですが、日本では、トラックメーカーが申し出るエンジンの無償交換などの示談で終わることが多かったようです。

当方が自信を持って最後まで方針を貫けたのは、使用者に求められている点検・整備を依頼者の会社では十分に行っており、その立証ができていたことです。

自動車は、オイルメンテナンスを長期にわたり怠っていますとエンジンが焼き付く可能性がありますが、これまで、そうでない場合でも、メーカーは使用者のせいにしてきた可能性があります。自動車の使用者が必要な点検・整備も行い、通常の使い方をしていたのにエンジンから出火したようなときは、メーカーが製品以外の外部の原因(使用者側、第三者側などの原因)によるとの反証ができない限り、法的責任を負うことが明らかになりました。メーカーは法的責任があることを認識して、誠実に対応することが求められます。(弁護士 松森 彬 弁護士 高江俊名 弁護士 柳本千恵